炎天下での短時間歩行が直後の学習・仕事のパフォーマンスを低下させることを実証

2022年2月22日

国立大学法人筑波大学

概要

日本のオフィスワーカーや学生は、夏場、空調の効いた室内と暑さの厳しい屋外との間を行き来することが多く、厳しい暑さの屋外から室内に戻った後、仕事や学習のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。そこで本研究では、暑い屋外を短い時間歩くことが、直後のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのか明らかにするために、大規模な被験者実験を実施しました。実験に参加した96名の被験者は、屋外で歩く前後に、空調の効いた室内で簡単な足し算のテストを受けました。実験の結果、熱中症厳重警戒日に屋外を15分間歩くと、その直後のテスト正答率が、歩く前に比べて3.6%低下していました。この傾向は、女性よりも男性でより強く見られました。

また、睡眠時間にも着目したところ、睡眠時間が短くなると、屋外を歩いた後のテスト正答率がより低下しやすいことが示されました。この傾向は、睡眠時間が5時間未満の被験者で特に顕著で、とりわけ男性被験者については、歩いた後のテスト正答率が9.1%低下しました。つまり、睡眠不足の男性が夏の暑い日に屋外を歩いた場合、その後の仕事や学習のパフォーマンスを大きく低下させる可能性があります。本研究結果は、日本におけるオフィスワーカーの生産性や学生の学習効率を向上させるために役立つと期待されます。

図1 被験者実験の様子。(a) 室内での加算テスト。(b) 屋外での歩行もしくは座る様子。

 

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【CCSで学ぶ】 佐野 由佳さん

佐野 由佳(SANO Yuka)さん

 

情報学群 情報科学類 
ハイパフォーマンス・コンピューティング・システム研究室 4年

 

 

(内容は、2021年7月取材当時のものです。)


佐野さんは、筑波大学 情報学群 情報学類在籍時にHPCS研究室に入り、小林諒平 助教の指導のもとで研究を続けています。

今の進路に進んだ理由

両親が情報工学系の出身で、家でもパソコンなどを普通に触れる環境だったのが大きいと思います。植物もとても身近にあったので、一時期は農学に進むことも考えていました。どちらも身近なものから影響を受けています。
中学3年くらいから情報系への進学も視野に入れていたので、コンピュータ部に所属していました。ただ、大学に入ってみたら、今までやっていたことはなんだったのだろうというくらい違っていたのですが…。コンピュータに触れる機会が多かったのはよかったかなと思っています。
小学校の先生をやっているいとこに簡単なプログラミングを紹介する機会があり、とても喜んでもらえたのも情報系に進学したきっかけの一つです。パソコンにあまり触れないような人でもすごいアイディアを持っていて、でも頭の中身をプログラム上に落とし込めない、という人はたくさんいると思います。そういう人たちがのびのびプログラミングできる環境を整える、ということがやりたいなと思い、できそうな大学を探しました。

 

どんな風に研究をしているの?

これまでCPU向けのプログラミングなどは経験があるので、今はGPUのプログラミングや最適化技術を勉強しています。まだ具体的な研究テーマが固まっていないので、まずは自分でやってみて、いろいろと動かしてみて課題を見つけようとしているところです。
コロナ禍なので、ほとんど家からリモートで研究をしています。ノートPCや家族共有のデスクトップで情報収集をしたりプログラムを書いたりして、リモートで研究室のPPX*につなぎ、プログラムを走らせてみることで研究を進めています。

(*PPX:Pre-PACS-X、スーパーコンピュータCygnusの開発のために作られたミニクラスタ)

 

こんな研究を進めたい!

低年齢向けのプログラミングツールはいろいろあるけれど、その次の段階は専門言語になってしまいがちです。その間をうまく埋める言語ができたら、抵抗なく学習できる層が増えるのではないかと思っています。プログラムを専門に学んだ人でなくても使えるような環境を作っていく、プログラミング言語からそれをサポートする研究がしたいですね。

 

高校ではどんな勉強をしていたの?

大学に入ってから学ぶことがとても多くて、高校時代は普通の受験勉強をしていただけです。情報系に進むからといって特別な対策はしませんでした。今の高校生は情報が教科にあると思うので、それで十分だと思います。

 

メッセージ

今やれることを精一杯やって、大学入ってからもやれることを精一杯やるといいと思います。私は中3の頃に情報系に進もうかなと考えていましたが、それより遅く始める人もいます。入試までに意思が固まれば大丈夫! どんな分野も、大学に入ってからでも基礎的なことから学べるので、そこからコツコツやる習慣が身につけば、いつ始めても遅くはないと思います。

 

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【受賞】日下教授、塩川准教授が筑波大学2021 BEST FACULTY MEMBERに選ばれました

計算科学研究センター 地球環境研究部門の日下 博幸教授、計算情報学研究部門(データ基盤分野)の塩川 浩昭准教授が、筑波大学2021 BEST FACULTY MEMBERに選ばれました。

表彰式は2月7日にオンラインで開催されました。

日下博幸教授(左)と朴センター長
塩川浩昭准教授(左)と朴センター長

詳しくは大学ホームページをご覧ください。

令和3年度 年次報告会(2022年2月22日)

日時:2022年2月22日(火) 8:30~18:30
会場:Zoom

計算科学研究センター 令和3年度年次報告会を行います。

プログラム

発表時間は、新任者(*印)は15分、それ以外の方は12分です(質疑応答、交代時間含む)


セッション1 (8:30-10:00 座長:松枝末遠)

8:30       朴 泰祐 (センター長)
8:32       北原 格 (計算情報学研究部門)
8:44         *大谷 実 (量子物性研究部門) 
8:59         *中山 卓郎 (生命科学研究部門)
9:14         *Savong Bou (計算情報学研究部門)
9:29         *萩原 聡 (量子物性研究部門) 
9:44         重田 育照 (生命科学研究部門)

セッション2 (10:00-11:30 座長:吉川耕司)

10:00       松枝 未遠 (地球環境研究部門)
10:12       佐藤 駿丞 (量子物性研究部門)
10:24       堀江 和正 (計算情報学研究部門)
10:36       田中 博 (地球環境研究部門) 
10:48       石塚 成人  (素粒子物理研究部門)
11:00       矢花 一浩 (量子物性研究部門) 
11:12       亀田 能成 (計算情報学研究部門)

セッション3 (11:30-13:00 座長:中山卓郎)

11:30       藏増 嘉伸  (素粒子物理研究部門)
11:42       吉川 耕司 (宇宙物理研究部門)
11:54       吉江 友照  (素粒子物理研究部門)
12:06       橋本 幸男  (原子核物理研究部門)
12:18       原田 隆平 (生命科学研究部門)
12:30       Doan Quang van (地球環境研究部門)
12:42       高橋 大介 (高性能計算システム研究部門) 

 
セッション4 (13:00-14:30 座長:日野原 伸生)

13:00       日下 博幸 (地球環境研究部門)
13:12       Alexander Wagner (宇宙物理研究部門)
13:24       宍戸 英彦 (計算情報学研究部門)
13:36       中務 孝 (原子核物理研究部門)
13:48       大野 浩史 (素粒子物理研究部門)
14:00       藤田 典久 (高性能計算システム研究部門)
14:12       堀 優太 (生命科学研究部門)

セッション5 (14:30-16:00 座長:多田野寛人)

14:30       矢島 秀伸 (宇宙物理研究部門)
14:42       額田 彰 (高性能計算システム研究部門)
14:54       塩川 浩昭 (計算情報学研究部門)
15:06       稲垣 祐司 (生命科学研究部門)
15:18       小泉 裕康 (量子物性研究部門)
15:30       天笠 俊之 (計算情報学研究部門)

  
セッション6 (16:00-17:30 座長:Alexander Wagner)

16:00       梅村 雅之 (宇宙物理研究部門)
16:12       多田野 寛人 (高性能計算システム研究部門)
16:24       森 正夫 (宇宙物理研究部門)
16:36       Tong Xiao-Min (量子物性研究部門)
16:48       朴 泰祐 (高性能計算システム研究部門)
17:00       前島 展也  (量子物性研究部門)

 
セッション7 (17:30-18:45 座長:藤田典久)

17:30      大須賀 健 (宇宙物理研究部門)
17:42      小林 諒平 (高性能計算システム研究部門)
17:54      庄司 光男 (生命科学研究部門) 
18:06      日野原 伸生  (原子核物理研究部門)
18:18      建部 修見 (高性能計算システム研究部門)

 

研究トピックス「世界初の6次元シミュレーションを解く!」公開

計算科学研究センター(CCS)に所属する教員・研究員の研究をわかりやすく紹介する「研究者に聞く− 研究トピックス」に「Vol.7 世界初の6次元シミュレーションを解く!」を公開しました。

宇宙物理研究部門 の吉川准教授の研究を紹介しています。

「研究者に聞く− 研究トピックス」

「Vol.7 世界初の6次元シミュレーションを解く!」

Prof. KAMEDA and Assist. Prof. SHISHIDO received the prize of the best paper award in IWAIT2022 [Division of Computational Informatics]

A paper presented at IWAIT2022 (2022 INTERNATIONAL WORKSHOP ON ADVANCED IMAGE TECHNOLOGY, Hong Kong/online in January 2022) under the research of Professor KAMEDA Yoshinari and Assistant Professor SHISHIDO Hidehiko of the Division of Computational Informatics was selected for the Best Paper Award of the conference.

Our new research videos are available [Department of Computational Medical Science]

Our research videos are now available on YouTube.

The videos introduce the research activities of the Department of Computational Medicine, especially the two project teams of (1) Computational Biomolecular Medicine and (2) Big Sleep Data Analysis and Automated Sleep Diagnosis. 

Computational Biomolecular Medical Science | CCS, Univ. Tsukuba

Big Sleep Data Analytics and Automatic Sleep Diagnosis | CCS, Univ. Tsukuba

【動画公開】計算メディカルサイエンス 研究紹介1&2

筑波大学計算科学研究センターでは、最先端の計算科学を医学と連携させる新たな取組みとして「医計連携」を創出する「計算メディカルサイエンス事業」を推進しています。

本動画では、計算メディカルサイエンス事業の4つのプロジェクトチームのうち、(1) 計算生体分子医科学 および (2) 睡眠ビッグデータ解析・自動診断 について、その研究の内容と最新の成果を紹介しています。

 

『計算生体分子医科学』プロジェクトチーム

 

『睡眠ビッグデータ解析・自動診断』プロジェクトチーム

吉川耕司准教授らの2021年ACM Gordon Bell Prize ファイナリスト選出に寄せて

令和4年1月7日
計算科学研究センター・センター長 朴泰祐

我々,筑波大学計算科学研究センター(以下,CCS)はACM Gordon Bell Prize(ゴードン・ベル賞 以下,GBP)に関し長い歴史を持っています。最も古くは1996年,CCSの前身である計算物理学研究センターが日立製作所と共同で開発したCP-PACSを用い,素粒子物理学のQCD計算でGBPに初チャレンジしました。CP-PACSはその年の11月のTOP500リストにおいて世界第一位にランクされましたが,残念ながらGBPの方はファイナリストに残ることができませんでした。

その後,2011年にスーパーコンピュータ「京」のフルシステムの完成を前に,CCSと理化学研究所・計算科学研究機構(現在の理化学研究所・計算科学研究センターR-CCSの前身)との間で,「京」の上での大規模計算科学アプリケーション開発の共同研究が行われ,その中の一つとして物性第一原理計算であるRSDFT (Real Space Density Function Theory)アプリケーションの開発を行いました。このコードは元々,CCSの押山淳教授・岩田潤一研究員を中心とする物性研究チームと,朴泰祐教授・高橋大介准教授・辻美和子研究員を中心とする高性能計算研究チームの協力の下,T2K-Tsukubaを対象に開発されたものでしたが,「京」に移植するにあたり,前人未到の10万原子問題にチャレンジし, 2011年のGBPのファイナリストに選出,そして受賞者となりました。これに続き,2012年には石山智明研究員が中心となり,「京」を用いたダークマターの重力計算ツリーアルゴリズムを用いた実装により,再びGBPのファイナリストに選出され受賞者となりました。2011年の受賞では「京」は世界最高性能システムとしてTOP500で1位となっていましたが,2012年には「京」の約2倍のピーク性能を持つ米国Lawrence Livermore National LaboratoryのSequoia (IBM BG/Q)上で同種のアプリケーションがやはりGBPのファイナリストに選出されていました。しかし,「京」における石山研究員らの実装の効率が非常に高く,計算上の工夫も優れていたことが評価され,受賞につながりました。(※文中の所属・肩書きは当時のものです)

このように,CCSでは2011年と2012年の2年連続でGBPのファイナリスト選出及び受賞者となった実績があります。なお,国内の他の研究機関で,「京」を保有している理化学研究所を除き,2度のGBP受賞者となった研究機関はCCSだけです(honorable mentionなどを除く)。このことは強力な研究体制,計算科学と計算機科学の両分野の研究者の密な共同研究に基づくcodesign(コデザイン)能力,世界トップクラスのスーパーコンピュータの特性を知り抜いた研究者集団という,CCSの研究力が存分に発揮された結果です。

2021年,宇宙物理学研究部門の吉川耕司准教授・京都大学の田中賢研究員・東京大学の吉田直紀教授のグループによるスーパーコンピュータ「富岳」を用いた6次元Vlasov方程式の求解による宇宙ニュートリノ数値シミュレーションがGBPにチャレンジし,CCSとしては9年ぶりにファイナリストに選出されました。残念ながら受賞者には選ばれませんでしたが,特筆すべきは「富岳」が2021年時点でも世界最高性能計算機としてTOP500リストにランクされている状況で,この研究が唯一GBPファイナリストに選ばれたという点です。2021年は「富岳」登場の前に世界最高性能計算機であったOak Ridge National LaboratoryのSummitや,中国の最新システム new Sunway Supercomputerなどが登場しており,GBPの競争も熾烈なものでした。その中で,吉川准教授らの研究が「富岳」を用いてファイナリストに残ったことはCCSとしての大きな成果であると言えます。このコードは「富岳」の特徴であるArmアーキテクチャに基づくSVE (Scalable Vector Extension)命令セット,メモリの特性,Tofu-Dネットワークなどを最大限に利用し,高い効率の演算と世界最大規模のVlasovシミュレーションを実現したものであり,CCSの宇宙物理研究部門及び吉川准教授の長年の経験と,計算科学に対する地道な研究の結果であります。

CCSでは,今後もACM GBPに限らず,あらゆる高性能計算と計算科学の成果に対するチャレンジを続けていきます。

 


関連動画:『ゴードン・ベル賞ファイナリストに聞きました!「富岳」を用いた宇宙ニュートリノの数値シミュレーション。』(企画・制作 一般財団法人 高度情報科学技術研究機構)

関連動画:『富岳を用いた宇宙ニュートリノの数値シミュレーション | 筑波大学計算科学研究センター』(製作 筑波大学計算科学研究センター 吉川耕司准教授)

Light-Matter Interactions Simulated on the World’s Fastest Supercomputer

Researchers led by the University of Tsukuba present an improved way to model interactions between matter and light at the atomic scale

Tsukuba, Japan—Light-matter interactions form the basis of many important technologies, including lasers, light-emitting diodes (LEDs), and atomic clocks. However, usual computational approaches for modeling such interactions have limited usefulness and capability. Now, researchers from Japan have developed a technique that overcomes these limitations.

In a study published this month in The International Journal of High Performance Computing Applications, a research team led by the University of Tsukuba describes a highly efficient method for simulating light-matter interactions at the atomic scale.

What makes these interactions so difficult to simulate? One reason is that phenomena associated with the interactions encompass many areas of physics, involving both the propagation of light waves and the dynamics of electrons and ions in matter. Another reason is that such phenomena can cover a wide range of length and time scales.

Given the multiphysics and multiscale nature of the problem, light-matter interactions are typically modeled using two separate computational methods. The first is electromagnetic analysis, whereby the electromagnetic fields of the light are studied; the second is a quantum-mechanical calculation of the optical properties of the matter. But these methods assume that the electromagnetic fields are weak and that there is a difference in the length scale.

“Our approach provides a unified and improved way to simulate light-matter interactions,” says senior author of the study Professor Kazuhiro Yabana. “We achieve this feat by simultaneously solving three key physics equations: the Maxwell equation for the electromagnetic fields, the time-dependent Kohn-Sham equation for the electrons, and the Newton equation for the ions.”

The researchers implemented the method in their in-house software SALMON (Scalable Ab initio Light-Matter simulator for Optics and Nanoscience), and they thoroughly optimized the simulation computer code to maximize its performance. They then tested the code by modeling light-matter interactions in a thin film of amorphous silicon dioxide, composed of more than 10,000 atoms. This simulation was carried out using almost 28,000 nodes of the fastest supercomputer in the world, Fugaku, at the RIKEN Center for Computational Science in Kobe, Japan.

“We found that our code is extremely efficient, achieving the goal of one second per time step of the calculation that is needed for practical applications,” says Professor Yabana. “The performance is close to its maximum possible value, set by the bandwidth of the computer memory, and the code has the desirable property of excellent weak scalability.”

Although the team simulated light-matter interactions in a thin film in this work, their approach could be used to explore many phenomena in nanoscale optics and photonics.

 

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This research was supported by MEXT as a priority issue (theme 7) to be tackled using the Post-K Computer; by JST-CREST (grant number JP-MJCR16N5); and by the MEXT Quantum Leap Flagship Program (MEXT Q-LEAP, grant number JPMXS0118068681).

Original Paper

The article, “Large-scale ab initio simulation of light-matter interaction at the atomic scale in Fugaku,” was published in The International Journal of High Performance Computing Applications at DOI: https://doi.org/10.1177/10943420211065723

Correspondence

Professor YABANA Kazuhiro
Center for Computational Sciences, University of Tsukuba

 

「富岳」を用いた1万超の原子を含むナノ物質の超高速光応答シミュレーションに成功

2022年1月6日

国立大学法人筑波大学
国立大学法人神戸大学
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)

概要

先端のレーザー技術を用いた光科学の研究では、極めて強く短いパルス光を物質に照射することにより、多くの新奇な現象が発見されています。これらの現象を理解するためには、光を照射した物質の内部で起こる、電子やイオンのミクロな運動を解明することが必要です。本研究では、スーパーコンピュータ「富岳」を用い、1万を超える原子を含むナノ物質の光応答の第一原理計算に、世界で初めて成功しました。

物質に光を照射すると、振動する光の電場により、物質中の電子とイオンが揺すられます。この電子やイオンの運動が光の伝搬に影響し、光の屈折や反射が起こります。このような光科学現象を解明するには、光の電磁場、電子、そしてイオンの運動を、物質科学の第一原理計算法に基づき同時に記述することができるオープンソースソフトウェアSALMONによる計算が有効です。本研究では、「富岳」の性能を生かした計算を行うため、理論物理学と計算機科学の研究者が密接に協力し、SALMONに対する高度なチューニングを行い、「富岳」の全システムのおよそ1/6を用いた10万以上のプロセスからなる並列計算により、約6ナノメートルの厚さを持つ酸化ケイ素ガラスの薄膜と高強度なパルス光の非線形光応答を調べることに成功しました。

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【動画公開】計算メディカルサイエンス  イントロダクション

筑波大学計算科学研究センターでは、最先端の計算科学を医学と連携させる新たな取組みとして「医計連携」を創出する「計算メディカルサイエンス事業」を推進しています。

本動画ではイントロダクションとして事業全体をご紹介します。

 

各4グループの研究紹介についても、順次動画を公開予定です。

 

【動画公開】夏休み!オンライン一般公開「スーパーコンピュータ」ってなんだろう? 2

2021年8月25日に開催した、筑波大学計算科学研究センターの「夏休み! オンライン一般公開『スーパーコンピュータ』ってなんだろう?」より、「スーパーコンピュータと計算科学」の講演の様子を動画として公開いたしました。

スーパーコンピュータと計算科学

 

>>CCS 公式 YouTube チャンネル

世界初の6次元シミュレーションを解く!

吉川 耕司 准教授

宇宙物理研究部門

宇宙にはダークマターやバリオン(原子から構成される物質)などからなる様々な粒子が広がっています。粒子の密度が高いところもあれば低いところもあり、その分布の成り立ちを知るためには計算機を用いたシミュレーションが不可欠です。吉川先生は、これまで解くことが難しかった問題の高精度な計算手法を開発し、宇宙の成り立ちに迫る研究を進めています。

(2021.12.24 公開)

 

宇宙の謎を解く鍵 −ブラソフ方程式−

宇宙には、銀河やガスが多く集まる領域やそれらがほとんど存在しない領域があり、その分布は均質ではありません。このような宇宙全体の非一様な構造のことを「宇宙大規模構造」と呼びます。宇宙大規模構造の形成には、宇宙に大量に存在するダークマターやニュートリノが関わっていると考えられています。現在のような宇宙大規模構造がどのようにできたのかを知るためには、宇宙の初期にほぼ一様に分布していたダークマターやニュートリノの分布が、時間と共にどのように変化したのかを知ることが手がかりになります。

これまで、ダークマターやニュートリノの運動のシミュレーションには、ある程度の粒子の集団を一つの粒子(超粒子)とみなして計算するN体シミュレーションという手法が使われてきました。しかしこの手法には、連続で滑らかな粒子の分布を大きい超粒子の分布で置き換えて表現するため、計算結果にノイズが入るという欠点がありました。

粒子の動き(運動)は、粒子の位置と速度で表されます。粒子は、位置と速度の両方の情報を含む位相空間(図1)の中を、時間の経過とともに連続的に移動します。このような粒子の集団的な動きを表す方程式が、ブラソフ方程式(図2)です。数値シミュレーションを使ってブラソフ方程式を解くことができれば、粒子の運動を第一原理的1)にシミュレーションすることができます。しかし、これまでこの計算はほとんど挑戦されてきませんでした。

図1 粒子の1次元上での運動は、空間1次元と速度1次元の2次元からなる位相空間で表される。

 

図2 ブラソフ方程式

分割数を増やさずに精度を上げる

宇宙の研究では、計算領域を小さく分割して数値シミュレーションを行います。通常の3次元空間(実空間)を扱う場合、x軸、y軸、z軸の辺をそれぞれN個に分割すると、Nの3乗に比例するメモリ量が必要になります。一方、ブラソフシミュレーションは空間3次元に速度空間3次元を加えた6次元の位相空間を扱うため、各辺をN個に分割した場合にNの6乗に比例するメモリ量が必要になってしまいます。精度を上げるには分割数を増やす必要がありますが、ブラソフシミュレーションの場合は分割数を増やすとメモリ量が膨大となってしまい、スーパーコンピュータでも実用的な計算ができないという点が大きな壁となっていました。

そこで、吉川先生はブラソフ方程式の数値拡散という性質に着目しました。空間を分割してブラソフ方程式を解くと、位相空間での粒子の密度を示す分布関数の輪郭が時間経過とともにぼやけてしまうという性質があります(図3)。これを数値拡散と呼びます。これは計算過程で行う近似によって生じるもので、なくすことができません。吉川先生はこの近似の精度を上げることで、数値拡散を減らし、ブラソフシミュレーションの精度を上げる手法を開発しました。

この手法を使うことで、分割数を増やさずにブラソフシミュレーションの精度を上げることができ、結果として同じメモリ量でこれまでのブラソフシミュレーションよりも格段に精度の高い結果を得ることが可能になりました。

図3 大量の粒子の運動を扱う場合、個々の粒子の動きではなく位相空間での密度(分布関数)の変化で表す。図は空間1次元と速度1次元の2次元からなる位相空間での分布関数の時間発展の様子。上段が従来法、中段が精度をあげたブラソフシミュレーション、下段が別の手法で求めた参照解。上段に比べて中段の方が精度の良いシミュレーションとなっている。

さらに、スーパーコンピュータの性能向上も合わさり、世界有数の高性能なスーパーコンピュータ「京」や「富岳」、Oakforest-PACSを使うことで、世界で初めてブラソフシミュレーションを実用化することに成功しています(図4)。「富岳」を用いた成果は、スーパーコンピュータを用いた科学・技術分野の研究の中で、その年に最も顕著な成果を挙げた研究グループに贈られる米国計算機学会のゴードン・ベル賞の2021年最終候補(ファイナリスト)に選出されました。

 
図4 宇宙大規模構造形成におけるニュートリノの密度分布をブラソフシミュレーションで解いた結果。

 

宇宙は広く、ダークマターやニュートリノも場所によって様々な密度分布をしていると考えられています。今後も様々な条件の場所を標的にブラソフシミュレーションを解いていくことで、宇宙の進化の謎に迫ることができます。また、ブラソフシミュレーションはプラズマの研究への応用も期待されています。

 


【用語】

1)第一原理計算:実験で得られた数値や経験によるパラメータを使わず、物理の基本法則(第一原理)に基づいた計算を行う手法。

 

さらに詳しく知りたい人へ

Call for Multidisciplinary Cooperative Research Program (MCRP) 2022

We have started a call for MCRP2022.
https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/eng/use-computer/mcrp-application/

Deadline: Jan. 23rd, 2022

From FY2022, there are some changes in the program, such as computers, the maximum budget in each class, disk allocation, procedure at the end of the year, etc.
READ “Call for proposals” and “Guide for submission” carefully, before submitting your proposal.

 

 

2022年度筑波大学計算科学研究センター「学際共同利用」公募開始(締切1/23)

2022年度筑波大学計算科学研究センター「学際共同利用」プログラム(MCRP2022)の公募が始まりました。

今回からいくつか重要な変更がありますので、「公募要領」、「申請の手引き」を必ず良く読んでからオンライン提出をお願いいたします。

詳しくは学際共同利用のページをご覧ください。

奮ってのご応募をお持ち申し上げます。

公募締切:2022年1月23日(日)