ワークショップ

原子層鉱物の機能開拓に向けた計算・計測連携研究会

開催趣旨

原子層鉱物(粘土鉱物)はセラミックス、製紙、石油、触媒、化粧品、農薬、鋳物等々、従来から多面的な応用が知られていますが、材料、環境、資源などのあらゆる面で今まで以上の活用が期待されている物質群です。本研究会では、様々な用途が想定される粘土鉱物の高度利用を目指して、産学官のシミュレーション技術と計測技術の連携を深めるための意見交換を行います。

開催日時・会場

日程: 2022年5月17日 9:00-12:00
会場: 計算科学研究センター会議室BおよびZoom によるハイブリット開催

 

プログラム

9:00 – 9:05

開会の挨拶・趣旨説明 
筑波大学 大谷 実

9:05 – 9:30

精製・合成粘土とその機能性について 要旨) 
クニミネ工業株式会社 後藤 佑太

9:30 –9:55

粘土分散液とアルミニウムとの界面現象とエネルギーデバイスへの応用の可能性 (要旨
山形大学 立花 和宏

9:55 –10:20

粘土分散液と金属表面が作り出す不思議な現象 (要旨
山形大学 伊藤 智博 

10:20 –10:30

休憩

10:30 –10:55

層間ナノ空間が創発する水の負の誘電効果 要旨
産業技術総合研究所 安藤 康伸

10:55 –11:20

粘土鉱物の機械学習分子動力学法シミュレーション 要旨
日本原子力研究開発機構 奥村 雅彦

11:20 –11:45

密度汎関数法+古典溶液理論による粘土鉱物の電子状態、カチオン吸着構造および水和構造解析 (要旨
筑波大学 萩原 聡

11:45 –12:00

総合討論

講演要旨

講演者:後藤佑太(クニミネ工業株式会社)
「精製・合成粘土とその機能性について」
要旨:スメクタイト族に属する粘土は、厚さ1nm程度の板状鉱物で、粘土層は電荷の偏りを持ち電荷補償のためにカチオンが層間に存在している。層間カチオンがNaであるNa型スメクタイトでは、高い親水性を有するカチオンにより層間に水が導入される珍しい構造をもつ。この粘土鉱物は、水と粘土層が成す特殊な構造から増粘、膨潤、吸着、イオン交換性と様々な機能性を有しており、用途も多岐に亘っている。しかし、その構造の複雑性からメカニズムは不明な点も多く、粘土鉱物の機能性を引き出すための研究が様々な角度から行われている。今回は、スメクタイトに関する電気特性評価と、様々な機能性を利用した近年のトレンドについてご紹介する。

講演者:立花和宏(山形大学)
「粘土分散液とアルミニウムとの界面現象とエネルギーデバイスへの応用の可能性」
要旨:アルミニウムは、導電性に優れ、軽量な上、資源的にも豊富なので、エネルギーデバイスの集電体として、ほとんど唯一無二の材料である。しかし、表面に酸化被膜があるので、その電気的特性を制御することは、エネルギーデバイス設計の上で、重要である。粘土分散液とアルミニウムとの界面現象は、これまで出会ったことのない不思議な現象で、さまざまなエネルギーデバイスへの応用の可能性がある。

講演者:伊藤智博(山形大学)
「粘土分散液と金属表面が作り出す不思議な現象」
要旨:粘土分散液をSUSやアルミニウム板に挟み、乾燥すると2つの電極間に電気を貯める性質に出会う。この性質を探索する過程で、粘土分散液に、金属表面に粘土分散液が凝集し、粘土の層のようなものが見つかる。電気エネルギーを加えることで、粘土分散液は、層が発現したり、冷却したりと不思議な現象が見られ、工業製品への可能性が広がる。

講演者:安藤康伸(産業技術総合研究所)
「層間ナノ空間が創発する水の負の誘電効果」
要旨:リチウムイオン電池を始めとする二次電池の電極材料の多くは層状化合物を利用しており、層間ナノ空間へのイオンの脱挿入により起電力を制御する。新規電極材料でありスーパーキャパシタ等への応用が期待される物質群であるMXenes(マキシン)は溶液中でも1 nm程度の相関ナノ空間を保持していることが確認されており、ナノ閉じ込め効果の検証する対象物質としても期待される。本セミナーでは、ナノ閉じ込め効果により水がナノ空間で負の誘電効果を発現し電気二重層容量を増大させることを理論・実験から検証した研究について報告する。

講演者:奥村雅彦(日本原子力研究開発機構)
「粘土鉱物の機械学習分子動力学法シミュレーション」
要旨:これまで、粘土鉱物の動的な数値シミュレーションには主に古典分子動力学法と第一原理分子動力学法が用いられてきた。しかし、前者は精度が力場に大きく依存し全ての実験値を高精度に再現することは難しく、後者は計算コストが高いため、計算可能な系の大きさに限界があった。近年、第一原理計算の結果を人工ニューラルネットワーク等で学習し、高精度かつ低計算コストを実現する機械学習分子動力学法が提案された。本公演では、粘土鉱物の一つであるカオリナイトに対して機械学習分子動力学法を適用した研究について紹介する。

講演者:萩原 聡(筑波大学)
「密度汎関数法+古典溶液理論による粘土鉱物の電子状態、カチオン吸着構造および水和構造解析」
要旨:本研究では、密度汎関数法とreference interaction site model (RISM)を組み合わせた、3D-RISM法をNa型モンモリロナイトとバイデライトに適用した。本手法では、粘土鉱物の母層と層間カチオンに対して明示的な電子状態計算を行い、層間水による溶媒和効果を古典溶液理論であるRISMにより取り込んでいる。当日の発表では、3D-RISMによる解析から得られた粘土鉱物の電子状態、カチオン吸着構造および水和構造に対する知見を詳細に議論する。