原子核物理研究部門

研究部門主任

nakatsukasa 中務 孝 (筑波大学計算科学研究センター 教授)

1994年京都大学大学院博士課程修了。カナダ・チョークリバー研究所、英国・マンチェスター工科大学、理化学研究所等でのポスドク研究員を経て、2001年東北大学大学院理学研究科助手。2007年理化学研究所准主任研究員等を経て、2014年から現職。専門は、理論核物理学。特に核子多体系としての原子核構造・反応、中性子星の構造の研究に従事。

メンバー

研究分野の概要

原子の中心に存在する原子核は、その質量の大部分を占める極めて高密度の物質です。陽子と中性子の間にはたらく核力から出発して量子多体問題を解き、原子核の構造や反応を理解することが我々の目標です。最近は、星の中で原子核が生まれる過程や、量子多体系として共通する物質科学分野への展開も行っています。

研究紹介

①分野の説明

原子核は核子と呼ばれるフェルミ粒子(陽子と中性子)の集合体として記述できますが、多粒子系の量子力学や場の量子論といったミクロな世界を支配する力学が必須となる分野です。原子核の存在には、自然界の4つの力のうち、「強い力」、「電磁気力」、「弱い力」の3つが複雑に絡み合って、様々な構造と反応の様相を示し、それが我々の身の回りの物質の存在に関与しています。例えば、太陽や夜空の星々は原子核を燃料として輝いていますが、それは元素を生成する工場の明かりです。また、その燃焼(核反応)過程は、関与する力の性質や核構造に依存し、星の明るさ・寿命、生成する元素の種類・量などを支配しています。

原子核物理は、加速器を用いた実験と計算機を用いた理論計算の両輪で進歩してきました。原子核のような量子力学の多体問題には、数値計算が不可欠です。原子核物理研究部門では、量子力学に基づく理論、モデル、数値計算法を開発し、核構造、核反応、星の構造、物質の量子ダイナミクスを解明する研究を展開しています。

②研究トピックス

有限量子多体系である原子核を普遍的・定量的に記述できる理論として、エネルギー密度汎関数を出発点にする密度汎関数理論が発展してきました。図1はこれに基づいて計算された核変形を示します。さらに時間依存密度汎関数理論では、応答・反応・励起モードなどを研究することができます。我々は、原子核の光核反応と巨大共鳴、低エネルギー励起状態と核反応の数値解析に大きな成果を挙げており、核反応のミクロな機構や、核構造における対称性の自発的破れと量子揺らぎに関して多くの知見を得ることに成功しています。

図1 (a) 原子核の変形の大きさ(変形度)の核図表。比較的大きく変形した原子核のうち、(b) ラグビーボール型、(c) パンケーキ型に変形したもの。

数値シミュレーションによって得られた成果は、核構造・核反応・核物質の性質を理解するとともに、超新星爆発等の爆発的天体現象の中で合成される重元素の生成過程を理解する上でも重要な情報になります。また、多くの原子核は、 基底状態で陽子と中性子それぞれが対凝縮を起こした超流動状態にあることが、図1の結果でも確かめられており、回転運動等の集団運動への影響を研究しています。核反応においては、対凝縮相からの核子対移行や反応中の核形状変化の起こり易さなど、未解決の重要課題が多く、現在、核子超流動を考慮した3次元空間における実時間シミュレーション計算の遂行、大振幅集団運動論に基づく核反応経路の微視的決定等を推進しています。

最近、核分裂現象の解析にも着手し、 これまで未解明であった、原子炉の中で核分裂片としてキセノン周辺核が大量に生成されるメカニズムを解明しました。図2には、プルトニウム核(240Pu)の分裂の様子がシミュレーションの結果として示されていますが、大きい方(図の下側)の分裂片が洋ナシ型に変形しています。この変形によって、キセノン周辺の原子核がエネルギー的に得をすることが確かめられ、シミュレーション結果は実験データとも良い一致を示しています。

図2 プルトニウム原子核の核分裂シミュレーションの結果。左端から右端までの時間は、秒程度。

関連リンク:原子核理論研究室

(最終更新日:2019.12.10)