素粒子物理研究部門

研究部門主任

kuramashi 藏増 嘉伸 (計算科学研究センター 教授)

1995年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了。博士(理学)。高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所助手、筑波大学計算科学研究センター講師・准教授を経て現職。

メンバー

研究分野の概要

物質の最小単位である素粒子は重力、電磁気力、弱い力、強い力の4つの相互作用をします。そのうち「強い力」の研究は“紙と鉛筆”では難しく、スーパーコンピュータを用いた「格子QCD」の数値シミュレーションにより行います。クォークの力学から、その束縛状態である核子の質量や相互作用の性質を導き出すことを目指しています。

研究紹介

①分野の説明

自然界には、「重力」、「電磁気力」、「弱い力」、「強い力」と呼ばれる4つの基本的な力が存在します。これらのうち、強い力は恒星を輝かせている源であり、私たちの体を形作っている様々な分子の中の原子核を構成している力でもあります。強い力は物質の最小構成粒子(素粒子)であるクォークに作用し、非摂動効果により「閉じ込め」と呼ばれる特徴的な現象を引き起こします。実験で観測されるものはハドロンと呼ばれる複数のクォークによる束縛状態だけであり、クォーク単体が観測されることはありません。そのため、強い力の研究のためには何らかの非摂動的手法が必要となります。格子QCDの目的は、空間3次元と時間1次元から成る4次元時空間を離散化した格子上に量子色力学(QCD)と呼ばれる理論を定義し、スーパーコンピュータを用いた第一原理計算によって強い力の織り成す10−15 mの世界を定量的に研究することにあります。

②研究トピックス

  • ○ハドロン質量スペクトラムの精密計算
  • ○QCDの基本パラメータ(結合定数およびクォーク質量)の精密決定
  • ○ハドロン内部構造の解明
  • ○クォークを自由度とした軽原子核の構成
  • ○QCDに基づくハドロン間相互作用の研究
  • ○超高温状態(宇宙初期)や高密度状態(中性子星内部)を含めたQCDの相構造の解明

③最新の成果

近年のアルゴリズム改良および計算機性能の向上により、長年の目標であった物理点計算(自然界のクォーク質量そのものを用いた計算)が可能となってきており、これによって格子QCD計算は誤差10%レベルの段階から誤差1%レベルの精密計算の時代を迎えつつあります。最新の研究では、格子QCDによるハドロン質量の計算結果はほぼ実験値を再現できています(図1)。

図1 格子QCD計算によるハドロン質量と実験値(黒横棒)の比較

また、大体積のシミュレーションを行うことによってハドロン内部の構造も詳細に調べられるようになってきています。例えば、図2では陽子の内部構造を表す電気形状因子と呼ばれる物理量に対して格子QCDによる計算結果(□、◯)と実験値(赤線)との比較を行っていますが、両者は非常に良く一致していることがわかります。

図2 格子QCD計算による陽子電気形状因子と実験値(赤線)との比較

関連リンク:素粒子理論研究室

(最終更新日:2019.12.10)