プレスリリース

可逆性小児急性肝不全の発症機序の解明-治療薬開発に向けた道筋-

2023年12月27日

国立大学法人東北大学
国立大学法人熊本大学
国立大学法人筑波大学

【発表のポイント】

  • 可逆性小児急性肝不全の原因の一つはミトコンドリア酵素のMTU1遺伝子の変異ですが、疾患発症の仕組みは不明でした。
  • MTU1遺伝子の疾患関連変異の作用を検討し、変異がミトコンドリアtRNA硫黄修飾(注1)の低下を引き起こすことで発症に寄与することを明らかにしました。また、MTU1変異の種類によって硫黄修飾障害率が異なり、病態の重篤度に大きく影響することが分かりました。
  • MTU1タンパク質を分解してしまうCLPP(注2)遺伝子の発現を抑制することで、に成功しました。


【概要】

  可逆性小児急性肝不全は、重度の肝機能低下を主症状とする希少小児疾患であり、出生後まもなく発症し死に至るケースも報告されています。可逆性小児肝不全の原因としてMTU1遺伝子の変異が知られています。一方、患者で報告されているMTU1遺伝子の変異は非常に多様であり、それぞれの変異が疾患の発症に与える影響は不明でした。

東北大学加齢医学研究所の魏范研教授、Raja Norazireen Raja Ahmad研究員らは、熊本大学大学院生命科学研究部富澤一仁教授、筑波大学計算科学研究センター重田育照教授らとの共同研究により、可逆性小児肝不全患者で報告されている17種類のMTU1遺伝子変異の作用を明らかにしました。これらの変異はMTU1の酵素活性とタンパク量の低下を引き起こすことで、MTU1によるミトコンドリアtRNA硫黄修飾を大きく障害し、ミトコンドリアでのタンパク質翻訳とエネルギー代謝の低下原因となることがわかりました。

また、MTU1タンパク量低下の原因は、CLPPによる分解であることを突き止めました。さらに、CLPPの機能抑制がMTU1タンパク量の増加を介して、ミトコンドリアtRNA硫黄修飾の回復に成功し、MTU1の分解抑制が可逆性小児肝不全の治療につながる可能性が示されました。

本研究結果は2023年12月19日付の欧科学誌Nucleic Acids Researchに掲載されました。

 

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掲載論文

【題名】
Pathological mutations promote proteolysis of mitochondrial tRNA-specific 2-thiouridylase 1 (MTU1) via mitochondrial caseinolytic peptidase (CLPP)
 
【掲載誌】
Nucleic Acids Research
 
【DOI】
10.1093/nar/gkad1197