福島 肇 助教
宇宙物理研究部門
福島先生は星や星の集まりである星団がどのようにできるのかについてコンピュータを用いて理論研究をしている先生です。一般的な星形成の過程に、星が出す光の効果を取り入れることによってより正確な星形成のメカニズムを研究しています。
(2023.10.26 公開)
謎に包まれた球状星団の形成メカニズム
我々のいる宇宙に浮かぶ、星々の集まりである星団は、物質が無秩序に飛び交うガス雲から誕生します。
星団には、現在も多くの銀河系内で誕生し続けている比較的密度の低い散開星団と、とても密度の高い球状星団があります。私たちの住む天の川銀河にもたくさんの星団がありますが、特に球状星団はその誕生が宇宙初期ととても古いため、形成過程は謎に包まれていました。
球状星団の形成過程を考える上で特に問題になるのが、星団の周りにできる高温のガスである電離領域の影響です。球状星団は質量が大きいため、その形成過程でたくさんの紫外線光を出します。紫外線光によって星団周辺のガスが電離され高温となり、ガスが散逸するために、誕生した星々が散り散りになってしまい、まとまった大きい質量・密度の星団(=球状星団)ができない、というのがこれまでの課題でした。
カギを握る“光”の効果
そこで福島先生は、星団の形成過程をシュミレーションする計算過程に光の伝播による影響を組み込みました。
そもそも星団の形成過程をシュミレーションするには、基本的に”流体“という流動的で普通の硬い物体とは異なるものに関する方程式を解く必要があります。さらにこれに加えて、宇宙環境内で考えるべき物理的・化学的影響も取り入れる必要があり、これだけでも莫大な量の計算をしなくてはなりません。福島先生はこれらに加えて光の伝播も計算することを可能にし、より現実に近い物理現象をシュミレーションすることに成功しました。
これによって球状星団が生まれる仕組みもわかってきました。例えば、銀河系内において通常の5倍の密度のガス雲があれば、電離によって散り散りになる力よりも星の重力が強くなり、球状星団の形成が可能であることが示されたのです。
球状星団は宇宙初期に誕生したと考えられているため、その形成過程の研究は初期宇宙の状況を解明することにもつながります。
福島先生は球状星団中の星一つ一つの誕生や挙動を追ったり、星の元素組成を計算で再現することでより詳細に球状星団の性質に迫り、将来的に初期宇宙の解明につなげたいと考えています。
(文・広報サポーター 類家千怜)