研究Topics

より確からしい天気予報を目指して

松枝 未遠 助教

地球環境研究部門

松枝先生は、地球環境研究部門の研究者です。博士後期課程の学生のとき、筑波大学と気象庁数値予報課の共同研究の主力メンバーに抜擢されたことをきっかけに、アンサンブル予報の研究を始めたそうです。現在は、アンサンブル予報データの予測・応用可能性について研究されています。また、世界中の研究者が利用するデータベース『準リアルタイムアンサンブル予報プロダクト ウェブサイト(TIGGE / S2S / Copernicus Museum)』の運営にも熱心に取り組まれています。

(2023.09.20 公開)

 

どのくらい当たりそう? 予報の確からしさを調べるアンサンブル予報

数値予報とは、コンピュータを用いて地球大気の数値シミュレーションを行い、ある時点の大気状態から未来の大気状態を予測することです。ある時刻における地球上のあらゆる場所の気象要素(気圧、気温、湿度、風などの物理量)を初期値として与え、コンピュータ上で天気予報の方程式を解くことで仮想的に地球大気を再現します。ところが、この初期値には観測値が利用されるため、必ず誤差が含まれてしまいます。例えば、気温、湿度、風というのは日当たりや風通しによって時々刻々と変化するため、世界中どこでも均質に観測することはほぼ不可能です。この不均質な観測が、初期値の誤差の原因のひとつになり得るのです。数値予報では、初期値に含まれる僅かな誤差が計算を何度も繰り返すうちに増大し、予測の誤差が生じます(これを「大気のカオス性」と呼びます)。

予測の誤差を見積もるには、どうすればよいでしょうか? そのひとつとして「アンサンブル予報」と呼ばれる方法があります。アンサンブル予報では、観測値に手を加えることで少しずつ異なる初期値をたくさん用意して、一度に複数の予報を行います。アンサンブル予報の個々の予報のばらつきから予報の確からしさを見積もったり、確率予報を行うことができます。

図1:気象庁のアンサンブル予報による台風進路。左は台風10号(DAMREY)、右は台風9号(SAOLA)に関する予報で、ともに2023年8月25日12UTCを初期時刻とする。左の例では複数の予報の線がよくまとまっており、予報の確度が高い。右の例では予報の線がばらついており、予報の確度が低い。

 

アンサンブル予報の結果を比べてみよう!

台風の進路予報は、アンサンブル予報の例としてよく取り上げられます。まずは、以下のリンクから松枝先生の運用されているウェブサイトを覗いてみましょう。

   http://gpvjma.ccs.hpcc.jp/TIGGE/tigge_TC.html

このウェブサイトでは、2008年7月以降の日本周辺の台風進路予報と実況進路を見ることができます。例えば、2023年8月に沖縄本島を二度にわたり襲った台風6号(KHANUN)の予報を見たい場合には、

   Year(年):2023

   Tropical cyclone name(台風名):KHANUN

   Initial time of forecast(予報初期時刻):2023072812

と順に選択します。すると、2023年7月28日12UTC(協定世界時)を初期時刻とする各国の予報進路(色線)と実際の進路(黒線)が現れます。この時点では、台風6号は中国大陸に向かうとされていました(図2)。色線がよくまとまっており、予報は確からしいと誰もが思うほどでした。

しかし、新しい予報が出るごとに予想進路は徐々に変化していきます(Initial time of forecastを順に進めて確認してみてください)。7月31日12UTCを初期時刻とする予報(図3)では、先ほどよりも色線のばらつきが大きくなっています。これは、まだ確実とは言えないけれど、一度、沖縄を通過した台風が戻ってきて再上陸する可能性が出てきた、ということを示しています。結果的にはこの予報が実際の進路と一致しました。

このように、初期時刻や国によって予報結果は異なります。事前にどの予報が当たるか分かればよいのですが、残念ながら分かりません。だからこそ、起こりうる複数のシナリオを事前に把握し、予報の確からしさを調べることで対策に役立てます。

ところで、このウェブサイトはもともと、アンサンブル予報に携わる世界中の研究者のためのデータベースとして松枝先生が立ち上げたものです。研究者にとって、過去の予報データはまさに“宝の山”。誰もがアクセスできるよう整備することで、気象予報の研究の活性化に貢献しています。こうして得られた研究成果が反映されることで、天気予報が改善されていくのですね!

【ウェブサイト利用時の注意点】

研究・教育目的のみ使用可。最新の台風の予報進路が掲載されているわけではないので、実際の防災や避難等の参考にはしないでください(気象庁や民間気象会社の最新の台風情報をご利用ください)。

図2:2023年7月28日12UTCを初期時刻とする各国気象庁のアンサンブル予報による台風進路(a:カナダ気象センター、b:欧州中期予報センター、c:気象庁、d:米国環境予測センター、e:英国気象局)。

図3:2023年7月31日12UTCを初期時刻とする各国気象庁のアンサンブル予報による台風進路(a:カナダ気象センター、b:欧州中期予報センター、c:気象庁、d:米国環境予測センター、e:英国気象局)。

(文・広報サポーター 松山理歩)

 

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