研究Topics

機械学習で日本の医療現場を救いたい

堀江 和正 助教

計算情報学研究部門 データ基盤分野

堀江先生は、データ基盤部門の研究者です。主な研究テーマは、機械学習の医療分野への応用です。現場のリアルな課題の解決を第一に、日々研究に勤しんでいます。

(2023.11.06 公開)

 

機械学習の応用例 ~ 睡眠ステージの自動判定 ~

ヒトの睡眠には眠りの深さによって5つのステージが存在します。従来は脳波を計測し、その波形から技師が目視で睡眠ステージを判定していました。しかし、この方法では多大な時間と労力がかかります。“技師の負担を少しでも軽減したい“という切実な思いから、堀江先生は、睡眠ステージを判定する深層学習モデル『Sleep-CAM』を開発しました。このモデルでは、生体信号と睡眠ステージの対応関係を学習し、前者から後者を推定します。図1は、技師とSleep-CAMそれぞれによる睡眠ステージの判定結果を示しています。両者の判定結果を比較すると、ほぼ一致していることが分かります。Sleep-CAMによって技師と同レベルの判定が可能になったことで、より短時間で効率的に睡眠データを判定できるようになりました。

Sleep-CAMの技術は、(株)S’UIMINが提供する睡眠計測サービス『InSomnograf』に応用されています。InSomnografは、自宅で測定した睡眠脳波の解析結果を即時に確認できる、世界的にも画期的なシステムです。既に世間でも普及し始めており、医療機関での睡眠検査、睡眠関連製品・サービスの研究開発などに利用されています。

図1:技師による判定結果(上)とSleep-CAMによる睡眠ステージの自動判定結果(下)の比較。判定結果の一致率は83.6%となった。睡眠ステージは以下の5段階で構成される:覚醒(W)、レム睡眠(REM)、ノンレム睡眠(臨床では、睡眠の深さによってさらに3段階 [N1, N2, N3] に分けられる)。

 

実用化にかける想い

応用研究の世界では、新しい技術が開発されたとしても、実用化されるまでに時間がかかることがよくあります。また、現場の課題を解決するのに、既存の技術の組み合わせが有効な場合もあります。堀江先生は医療の現場で実際に“使える”ことにこだわって研究をされています。

現場で使えるようにするためには、一般的なパソコンで計算することを想定し、モデルの計算コストをなるべく小さくする必要があります。たとえ精度が抜群でも、計算コストが大きすぎると運用することができません。それよりは精度は必要十分なレベルで、計算コストが小さい方が実用技術としては優れています。加えて、ユーザが安心して使えるようにするための工夫も大事です。深層学習モデルはどのような処理を行っているのかが分かりにくく、“信頼できない”と感じるユーザもいます。それを解消するために、堀江先生のモデルではClass Activation Mappingと呼ばれる仕組みを導入し、判定根拠が分かるようにしています(図2)。こうした工夫が、Sleep-CAMのように実際に使われる技術にもつながっています。

堀江先生が目指す社会の理想像―それは、どこでも安定した医療提供ができる社会です。このまま機械学習の医療分野での実用化が進んでいけば、実現する日も近いかもしれません。

 

図2:睡眠ステージ判定時のモデルの判定根拠。背景のオレンジ色が濃い部分ほど、判定において重視された区間であることを示している。特徴的な脳波の波形(ここでは、紡錘波・K複合波)を理由にステージを判定していることを示すことで、ユーザに信頼して使ってもらうことができる。

(文・広報サポーター 松山理歩)

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