プレスリリース

次世代超省エネメモリの動作機構を電子レベルで解明 -抵抗変化型メモリ設計指針を計算科学によって構築-

 

プレスリリース

次世代超省エネメモリの動作機構を電子レベルで解明
-抵抗変化型メモリ設計指針を計算科学によって構築- 

 

2012年12月3日
国立大学法人筑波大学

概要

筑波大学計算科学研究センターの神谷克政助教、数理物質科学研究科・博士課程後期2年の梁文榮氏、白石賢二教授を中心とする研究グループは、次世代超省エネメモリの最有力候補である抵抗変化型メモリ(ReRAM)の動作機構を電子レベルで解明しました。ReRAMは、省エネルギー化社会実現の決め手となる待機電力ゼロのコンピュータ等の開発において、最も重要なメモリ素子と考えられています。ところが、これまで「ReRAMがなぜ動くのか」という物理的な視点から動作機構が解明されていなかったことが、超省エネメモリの開発上の大きな問題になっていました。今回、ReRAMの動作機構を電子レベルで解明したことで、ReRAMによる超省エネメモリの実現に向けた研究開発に大きなブレークスルーを与えることができました。
神谷助教らの研究グループは、筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータ「T2K-Tsukuba」などを用い、最先端の計算科学手法「第一原理計算」により、抵抗変化型メモリの物理的な機構を明らかにしました。この研究成果は、国際電子デバイス会議(IEEE International Electron Device Meeting:IEDM)会期中の2012年12月11日に発表されます。

1.研究の背景

情報化社会の一層の高度化が進行する中、コンピュータなどのIT機器が消費する電力は益々増大し、2025年には国内全体の20%を占めることが見込まれています。現在、これらの省エネルギー化に向け、コンピュータを構成する半導体メモリを、待機電力がゼロである超省エネ型の次世代メモリに置き換えることが考えられています。待機電力ゼロのメモリの最も身近な例は、USBメモリに代表されるフラッシュメモリです。しかし、超低電力化の点でより優れているのは、フラッシュメモリとは異なる原理で動作する抵抗変化型メモリ(ReRAM)です。
ReRAMは、電圧を加えると電気抵抗の値が変化する酸化物を、図1に示すように2枚の金属電極で挟み込んだ構造を持ちます。ここで、図1のように電極に電圧を加えて酸化物を通電させると、抵抗値が低い状態になります。一方、電圧の向きを変えて反対方向に電流を流すと、抵抗値が高い状態に変化します。このような抵抗値の変化は、ある一定以上の大きさの電圧で生じるため、それ以下の小さな電圧をかけることで抵抗状態を調べ(情報の読み出し)、大きい電圧をかけることで抵抗状態を変化(情報の書き込み・消去)させることができます。
ところが、これまで「ReRAMがなぜ動くのか」がわかっていませんでした。それが、超省エネメモリ実現に向けたReRAMの研究開発において大きな障害になっています。ReRAMを構成する酸化物中には、酸素原子の抜けた穴がバラバラに存在します。この穴は、ReRAMに電圧を加えると図2に示すように、集まって電流の通り道を作り(低抵抗状態)、電圧の向きを変えると電流の通り道の一部が切断される(高抵抗状態)ことが、電子顕微鏡を用いた実験などからわかってきています。ところが、電圧をかけるとなぜ酸素原子の抜けた穴が集まり、電流の通り道が形成されたり切断されたりするのか、という視点からの理解はこれまで十分にされていませんでした。

2.研究成果

筑波大学計算科学研究センターの神谷克政助教、数理物質科学研究科・博士課程後期2年の梁文榮氏、白石賢二教授を中心とする研究グループは、上記の問題を解決するために、ReRAMの動作時に電子レベルで何が起こっているのかを、量子論に基づく計算科学的な手法「第一原理計算」を用いてシミュレーションを行いました。その結果、電圧を加えると酸素の穴が集まる最も重要な原因を解明することができ、それに基づいてReRAMのメモリ特性を向上するためのデバイス設計指針を提案しました。
酸化物中の酸素原子の抜けた穴には電子が不足している場合が多く、プラスの電荷を帯びています(図3)。この場合、プラス同士の電気的な反発力のため、穴は集まることができません。ところが、酸化物に電圧が加わり穴に電子が注入されると、それらは集まることができ、電流の通り道が形成されます。一方、酸素原子の抜けた穴から電子を除去することで、穴は再びバラバラになります。
このような電子注入/除去で酸素原子の抜けた穴の凝集と分散が生じる機構は、2つの水素原子が電子を共有して共有結合を形成すると分子ができ、電子を取り除くと水素原子がイオン化してバラバラになることと類似しています。ReRAMでは、このような「イオン化した酸素原子の抜けた穴」と「イオン化していない酸素原子の抜けた穴」を、電圧による電子注入/除去により容易に作り分けることができ、その凝集と分散により電流通り道の形成と崩壊を制御できる点が、動作機構の本質であることがわかりました。
神谷助教らの研究グループは、この機構に基づき、ReRAMのメモリ特性を大きく向上させるために以下の提案をしました。これまで使われていた酸素原子の抜けた穴が発生しやすい材料(たとえばハフニウムHfと酸化ハフニウムHfO2)に加え、穴が発生しにくい材料(たとえば酸化アルミニウムAl2O3)を、図4のように組み合わせた多層構造ReRAMを作り、電流の通り道の形状を高度に制御することが重要です。
この成果は、国際電子デバイス会議(IEEE International Electron Device Meeting:IEDM、2012年12月10日~12日)会期中の2012年12月11日に発表されます。

3.波及効果と今後の展開

本研究の成果で明らかにした「ReRAMがなぜ動くのか」という電子レベルの機構により、超省エネメモリの実現に向けた研究開発が飛躍的に進展することが期待されます。さらに、近い将来抵抗変化型メモリ「ReRAM」が情報化社会のインフラとして本格的に普及し、待機電力ゼロのコンピュータなどが実現する省エネルギー化社会の形成が期待されます。

4.国際電子デバイス会議での発表

発表日時:12月11日(火)14:45~(米国太平洋標準時、日本時間12日7:45~)
発表セッション:Session 20. Memory Technology – Resistive RAM 講演番号:20.2
“Physics in Designing Desirable ReRAM Stack Structure -Atomistic Recipes Based on Oxygen Chemical Potential Control and Charge Injection/Removal” (高品質なReRAMを実現する多層構造デザインのための物理-酸素化学ポテンシャル制御と電荷注入/除去に基づく原子レベルの設計指針)
神谷克政1、梁文榮1、Blanka Magyari-Köpe2、丹羽正昭1、Yoshio Nishi2、白石賢二1,3(1 筑波大学数理物質系、2 スタンフォード大学、3 筑波大学計算科学研究センター、*下線は登壇者)

5.関連URL

筑波大学計算科学研究センター https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/ccs_introduction/
量子物性研究部門 https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/depart_intro/depart_quantum/

問い合わせ先

神谷克政
筑波大学数理物質系助教
TEL 029-853-5922 E-mail:kkamiya [at] comas.frsc.tsukuba.ac.jp
梁文榮
筑波大学数理物質科学研究科 博士課程後期2年
白石賢二
筑波大学計算科学研究センター/数理物質系教授
TEL 029-853-5911 E-mail:shiraishi [at] comas.frsc.tsukuba.ac.jp

報道担当:
筑波大学計算科学研究センター広報室
TEL 029-853-6260 E-mail:pr [at] ccs.tsukuba.ac.jp