プレスリリース

細胞内相分離によるプリンヌクレオチド合成の活性化 -生体内プリン量を適切に保つ仕組みと治療応用の可能性-

2025年5月1日
国立大学法人群馬大学
国立大学法人筑波大学

 

群馬大学(群馬県前橋市)未来先端研究機構の高稲正勝助教(当時)は筑波大学計算科学研究センターの森田陸離研究員(当時)、群馬大学生体調節研究所の吉成祐人助教および西村隆史教授との共同研究により、細胞内でプリンヌクレオチド(注1(以下、プリン)合成が活性化する仕組みの一端を解明しました。

プリンはエネルギー代謝や核酸合成に関与する、生物にとって重要な代謝産物ですが、その合成を調節する仕組みは十分には解明されていませんでした。今回、研究チームはプリン合成の化学反応の一部を触媒する酵素が、細胞内の液-液相分離現象(注2により動的な凝縮体を形成することを発見しました(図1)。また分子動力学シミュレーション(注3から、凝縮体形成は酵素反応の効率を高めることが予測されました。この凝縮体形成は環境中のプリン塩基の量に依存し、実際に凝縮体を形成できない変異体酵素を持つ細胞では、プリン合成活性が低下していました。

プリンの過剰生産は高尿酸血症や痛風を誘発するほか、多くのガン細胞ではプリン合成が異常亢進しています。本研究成果により生体内のプリン量を減少させる阻害剤の標的となる分子が同定され、痛風やガンの治療薬の創発に繋がる可能性があります。

研究成果は2025年4月10日、米国のオープンアクセスジャーナル PLOS Biology 誌に掲載されました。

 

用語解説

注1)プリンヌクレオチド(purine nucleotide)

細胞の中で使われる重要な分子の一種で、遺伝情報を伝えるDNAやRNAの材料になり、生命活動に欠かせない役割を担っている。

注2)液-液相分離(liquid-liquid phase separation)

均質な液体が互いに異なる2つの液体相に分かれる現象。細胞内で膜を持たない構造体(液滴あるいは凝縮体)を形成する原動力となる。細胞内の多くの生物学的プロセスで重要な役割を果たしている。

注3)分子動力学シミュレーション(molecular dynamics simulation)

原子や分子の動きをコンピュータ上で計算し、予測する手法。化学反応がどのように進行するか、あるいは特定の化学物質がどのように相互作用するかなどを調べることができる。

 

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掲載論文

【題名】
Phase separation of the PRPP amidotransferase into dynamic condensates promotes de novo purine synthesis in yeast(PRPPアミドトランスフェラーゼの動的凝縮体への相分離は酵母内のプリン新規合成を促進する)
 
【掲載誌】 
PLOS Biology
 
【DOI】
10.1371/journal.pbio.3003111