プレスリリース

[ウェブリリース]宇宙空間での生命の起源につながるホモキラリティーの可能性を提案〜生命科学と宇宙物理分野による学際連携による発見〜

2022年9月7日
筑波大学 計算科学研究センター

研究の背景

我々の体を構成するアミノ酸は、化学合成するとD型(右手型)とL型(左手型)の鏡像異性体注1)が50%ずつ生成されるが、生体内のアミノ酸は99%がL型で構成されている。この片側の鏡像異性体だけが存在している状態をホモキラリティーという。ホモキラリティーの発生起源は、19世紀のパスツール以来100年以上にわたって謎のままになっている。
ホモキラリティー発生起源を宇宙空間に求める説がある。近年、宇宙空間でアミノ酸と同様にキラル分子注2)である酸化プロピレン分子が観測された。そこで我々は、ホモキラリティーの宇宙起源説を立証すべく、計算科学研究センター内の生命科学研究部門と宇宙物理研究部門の連携により、酸化プロピレンのホモキラリティーの生成可能性について研究を行った。

研究内容と成果

我々は、ホモキラリティーの発生は、宇宙空間で水素原子から発生されるライマンα線の円偏光波による鏡像異性体の選択的分解が引き金となっていると予想した。円偏光波によってアミノ酸のホモキラリーが引き起こされる可能性を確かめる有力な方法が、量子化学計算である。アミノ酸は宇宙空間で直接観測されていないが、アミノ酸と同様にキラル分子である酸化プロピレン分子は、実際に宇宙空間で観測されている。そこで、ホモキラリティーの発生起源解明のためのケーススタディーとして、宇宙空間内で起こる酸化プロピレン分子の生成機構と円偏光波の吸収特性について量子化学計算を用いて調べた。計算により、酸化プロピレンおよびその前駆体の片方の鏡像異性体のみがライマンα線領域に強い円偏光吸収特性を持つことが明らかとなった。これにより、アミノ酸と同様のキラル分子である酸化プロピレン分子に対して、円偏光によるホモキラリティー生成の可能性を理論計算から提案することができた。

今後の展開

我々は、ホモキラリティーの宇宙起源説を立証すべく、宇宙生命計算科学連携拠点(https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/research_project/comp-astrobio/)を作り、学際連携研究を行っている。本研究は、宇宙空間における酸化プロピレンのホモキラリティーの発生可能性について言及したが、今後は、実際にアミノ酸を取り上げ、ホモキラリティーの発生可能性について調べていく。最終的に、計算科学を用いることにより、宇宙から見た生命の起源の解明を目指していく。

左)アミノ酸ホモキラリティーの宇宙起源説の模式図。円偏光波(オレンジ矢印)によってD型のアミノ酸が分解され、L型が過剰になるイメージ図。
右)酸化プロピレンの構造式と理論計算の模式図

用語説明

注1)鏡像異性体
立体構造が互いに実像と鏡像(右手型と左手型)の関係にある一対の異性体。アミノ酸は、一般的にD型(右手型)とL型(左手型)に分けることができる。

注2)キラル分子
鏡像異性体が存在する分子。

掲載論文情報

【題 名】Theoretical Investigation into a Possibility of Formation of Propylene Oxide Homochirality in Space.(酸化プロピレンの宇宙空間におけるホモキラリティー形成の可能性に関する理論的提案)
【著者名】 Y. Hori, H. Nakamura, T. Sakawa, N. Watanabe, M. Kayanuma, M. Shoji, M. Umemura, Y. Shigeta
【掲載誌】 Astrobiology
【掲載日】 2022年9月7日
【DOI】      10.1089/ast.2022.0005

 

 

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