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プレスリリース:レモン、キウイ、パンケーキ? 原子核の形を回して見る ~未知同位体の計算核データ「さわれる核図表」を公開~

国立大学法人筑波大学 計算科学研究センター 中務孝教授らの研究グループは、数千種におよぶ原子核に対して大型数値シミュレーションを実行し、核変換における新しい核変換経路を見出す基礎となる計算核データを整備しました。原子核の構造・反応を汎用的かつ普遍的に記述することができる密度汎関数理論注1)を用いた数値シミュレーションにより、数千核種における基底状態の構造データ、数百核種における励起状態・光反応断面積の情報を取得し、理論計算核データとして整理したものです。

これまでは、必要な計算量があまりに膨大になってしまうため、いくつかの対称性を仮定する制限を設けて計算を行っていました。今回、計算量を大幅に削減できる計算手法に基づく密度汎関数計算プログラムを開発した結果、対称性を一切仮定しない計算が可能となり、軸対称性や鏡映対称性を持たない未知の原子核の存在やその性質を予言することに成功しました。この成果により、様々な核反応断面積を計算する上で必要となる核構造データを提供することが可能になりました。

核図表上のほぼ全域にわたる核種についてこれらのデータをまとめ、ウェブサイト「InPACS」(Interactive Plot of Atomic nuclei & Computed Shapes)を立ち上げ、データのダウンロードなど専門家のニーズに応えるだけでなく、一般向けに作成した「さわれる核図表」から、個々の原子核の形状や密度分布などを分かりやすく提示しました。

原子核の構造・反応に関する様々な情報は、基礎物理学を超えて、原子力工学、物質工学、放射線医療など様々な分野で有用な基礎データとなります。世界各国に設立されている核データセンターでは、加速器などを用いて得られた貴重な実験データが、国際ジャーナルなどでの成果発表が終了した後に評価・公開され、人類共通の資源として活用されています。一方、実験データが取得できる核種は限られているため、理論モデルの助けが様々な応用の場面で必要となります。

今回、理論計算によって構築された核データを InPACS 上で公開したことで、実験データのない核種における様々な計算核データにアクセスできるようになりました。また、原子核に関する専門的知識を持たない一般の方向けに、InPACS では画面上でインタラクティブに個々の原子核の性質を知ることができるようになっています。

特に、一般にはよく知られていない原子核の形を図示し、拡大・回転などの機能を付けることで、ミクロな原子核の世界に具体的なイメージを持ってもらえるような工夫がされています。また、より一般の方に馴染みの深い周期表上で原子核を選ぶことで、核図表上の対応する位置を知ることも可能です。

ウェブサイト InPACS の構築・公開は、科学技術に携わる研究者や企業の技術者のみならず、高校レベルの理科の知識で理解できるような視覚的解説を提供し、原子核と放射線に関する基礎を学ぶことができるサイトとして、高校・大学レベルでの教育にも有益な資料を提供できると期待しています。

 

この度、2019年1月9日に本研究の成果をウェブサイト

http://wwwnucl.ph.tsukuba.ac.jp/InPACS/

で公開しました。

 

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