研究Topics

新しい気象学の手法を模索する自己組織化マップ

ドアン・グアン・ヴァン 助教

地球環境研究部門

ドアン助教は、地球環境研究部門の研究者です。もともと日本で建築物について研究し都市環境、とくに都市の温暖化やモデリングに強い関心を持っていたそうです。そんな経緯の末、現在は日下先生たちとともに、都市気候や応用気象という分野を研究されています。2021年に地球温暖化予測の研究がノーベル賞を受賞したことで、ますます注目を浴びている気象学研究の一端をご紹介しましょう。

(2021.12.10 公開)

 

大量の天気図から有用な気象パターンを抽出する

気象学というと天気予報が真っ先に頭に浮かぶと思います。天気図をみて、予報士が明日の降水確率を発表するといったもの。しかし気象学は本来、その天気の原因となる背後のメカニズムを解明することも大きな役割の一つです。そのために重要となる研究が今回紹介する「自己組織化マップ」(注1です。これは気象学に限らず、物理学など幅広い分野で用いられているデータ解析手法の一つです。たとえば、気圧配置(注2が載っている様々な天気図があります。それらを人の眼でみて分類するのではなく、機械によって大量のデータを一気に分類していこうという試みです。人間の神経細胞をもとにモデル化された人工ニューラルネットワークを用いて、数十年に及ぶ四季折々の大量の天気図を入力し、それらにどのような関係性があるかを分類、解析します。これをクラスタリング(注3といいます。図1のように、似たような気圧配置を示すパターンは、近い距離にある点群として集まっていき、最終的にある平面において、分類されたパターンが浮かびあがってきます。これが自己組織化マップ(SOMともいいます)です。これによって気候変動を与える主な原因を抽出することが容易となり、背後の気象メカニズム解明の大きな助けになると期待されています。

図1:気圧配置のデータを入力し、自己組織化マップを作成する概念図 丸の距離が近いほど、同じ天気図のパターンを示している

 

従来の分類手法よりも、精度の高いクラスタリングを実現!

ドアン助教は、この手法を改良することで、よりよい分類ができるような機械学習のアルゴリズムを研究しています。従来の手法では、図2の左に示す3つのパターンをうまく区別することができませんでした。黄色線と赤線の距離(水色の部分)が同じとして扱われてしまっていたのです。そこでドアン助教らは、新しい距離を導入して、このような差をはっきりと区別できる仕組みを開発しました。

日本列島周辺の40年に及ぶ数万の天気図を用いて学習させた最新の研究では、図2の右図のように、黄色と緑で示した従来の手法(COR-SOM, ED-SOM)よりもオレンジで示したドアン助教らの新しい手法(S-SOM)によるクラスタリングの精度がぐんと向上しているのがわかります。こうした大量の天気図から適切なパターンをうまく抽出する手法ができることで、将来の気象学の発展に役立つことが期待されています。こういった研究を通して、ドアン助教は都市の温暖化や、その温暖環境の原因解明に向けて、日夜取り組んでいます。

 

図2

ドアン助教は、2021年度の筑波大学若手教員奨励賞を受賞されました。おめでとうございます。

用語

1)自己組織化マップ:入力した大量のデータを並べて平面上で近い位置に集めることで指定した個数のグループに分類するための機械学習手法の一種

2)気圧配置:場所ごとの気圧を等圧線で図示したもので、低気圧や高気圧などの位置関係を表す

3)クラスタリング:様々なデータをグループに分けること

 

さらに詳しく知りたい人へ