研究Topics

光と電子の相互作用で導くアト秒科学!

佐藤 駿丞 助教

量子物性研究部門

世の中には、金属、絶縁体、半導体といった異なる性質をもつ多くの物質であふれています。これらを研究する分野が物性物理学と呼ばれています。とくに電子の運動など、ミクロな世界をきちんと解明するためには、量子力学を用いた大型計算機のシミュレーションが欠かせません。これにより、物質の新しい性質の解明や、新しい物質のデザインを行っています。とくに佐藤助教は、光と物質の相互作用の計算を行い、将来のエレクトロニクスに期待される次世代物性の研究を進めています。

(2021.9.29 公開)

 

超短時間、アト秒世界での光と物質の相互作用を解明する

佐藤助教は、約5年間ドイツのマックスプランク物質構造・ダイナミクス研究所に在籍して海外研究者と共同研究を進めてきました。今回は、その大きな成果の一つである「光と物質の相互作用の計算シミュレーション」についてご紹介します。物性物理の最先端のテーマとして、「アト秒(注1科学」というものがあります。これは10のマイナス18乗秒という、とてつもなく短い時間における現象を解明するものです。具体的には、フェムト秒(注2での時間幅をもった光パルスを、ダイヤモンドやチタンといった物質に照射することで、物質中の電子の動きを制御するというアイデアです。(図1)

図1:パルス光がチタン薄膜へ照射される様子の模式図 ©Mikhail Volkov

アト秒科学の研究は、将来的には、たとえば光による電流の制御や、光によって生み出される新たな物質の秩序形成といった基盤研究に役立ち、未来のエレクトロニクスとして注目されています。

 

パルス光により、電子が超高速に集まる!

2019年にチューリッヒ工科大学の実験グループとの共同研究として、厚さ100ナノメートル(注3という極薄の金属チタンに対して、フェムト秒で変化するパルス光を照射する実験を行いました。この実験結果を検証するには、電子が金属内でどのように運動しているかを理論的に解く必要があります。そのためには、ミクロ世界の法則である量子力学に基づいた計算を行わなくてはいけません。超高速の時間変化を再現するためには、大型計算機の力が必要となります。この大規模な電子運動計算を行った結果、チタン原子のまわりに電子が集まっていることが明らかになりました。(図2)

これを光誘起電子ダイナミクスと呼び、フェムト秒の時間ごと、電子が集まっている赤い領域が局在化している様子がはっきりとみてとれます。パルス光で金属内部の電子の局在化を強めたりすることで、物質の光学的な性質を超高速に制御させる新たな試みとして注目されています。佐藤助教は、こうした光によって引き起こされる、様々な物質の性質を制御するための新しい物性の研究に日夜取り組んでいます。

図2:チタン原子に電子が集まる様子(赤の領域が電子が多く集まっている)

用語

1)アト秒:10の18乗分の1秒

2)フェムト秒:10の15乗分の1秒

3)ナノメートル:10の9乗分の1メートル

 

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