プレスリリース

原子核の形状は「アーモンド」-定説を覆し、70年経て浮かび上がった真の姿-

2025年6月2日
理化学研究所
東京大学
筑波大学

概要

理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター 核構造研究部の大塚 孝治 客員主管研究員(東京大学名誉教授)、東京大学 大学院理学系研究科附属原子核科学研究センターの角田 佑介 特任研究員、筑波大学 計算科学研究センターの清水 則孝 准教授らの共同研究グループは、量子論に基づいて、原子核の形と回転に関する新たな理論体系を提示しました。

この成果は、70年近く信じられてきた原子核の形状と回転の描像とは異なり、教科書の書き換えにもつながるものです。

多くの原子核の形は球形ではなく、楕円体に変形しています。球形から大きく変形した原子核では、断面の一つが円形であるラグビーボール型の軸対称変形[1]が起きるとされてきました。

本研究では、量子論と核力[2]の性質に基づいて原子核の変形の様子を解き明かしました。多くの原子核では三つの主軸の長さが全て異なる楕円体となっており、どの断面も円形にならないアーモンド型の3軸非対称変形[1]が起きていることが理論的に明らかになりました。スーパーコンピュータ「富岳」[3]によるシミュレーションにより、このアーモンド型の描像から得られる結果が既存の実験データと一致しました。原子核の変形について多くの研究者が長く信じてきた見方が大きく転換することになり、それは安定超重元素[4]の探索などにも役立つと期待されます。

本研究は、学術雑誌『European Physical Journal A』(6月2日付:日本時間6月2日)に掲載されました。

従来のラグビーボール型の原子核(b)と本研究成果のアーモンド型の原子核(c)

 

原論文情報

T. Otsuka, Y. Tsunoda, N. Shimizu, Y. Utsuno, T. Abe, and H. Ueno, “Prevailing Triaxial Shapes in Atomic Nuclei and a Quantum Theory of Rotation of Composite Objects”, European Physical Journal A, 10.1140/epja/s10050-025-01553-1

発表者

理化学研究所
仁科加速器科学研究センター 核構造研究部
客員主管研究員 大塚 孝治(オオツカ・タカハル)
(東京大学名誉教授)

東京大学 大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター
特任研究員 角田 佑介(ツノダ・ユウスケ)

筑波大学 計算科学研究センター
准教授 清水 則孝(シミズ・ノリタカ)

 

用語説明

1.軸対称変形、3軸非対称変形
原子核の形状は球体や楕円体である。楕円体には主軸が3本あり、その中の最も長い主軸以外に、残りの2本の主軸の長さが等しい場合に軸対称と呼ばれる。一方、残りの2本の長さが異なると3軸非対称と呼ぶ。軸対称な楕円体変形では、円形の断面に垂直な軸の長さが円の直径よりも長いが、短い場合もあり得る。軸対称変形をプロレート変形、3軸非対称変形をオブレート変形と呼ぶ。実際の原子核ではプロレート変形が圧倒的に多く、本研究でもプロレート変形を暗黙の前提として想定している。

2.核力、テンソル力
陽子と中性子を総称して核子と呼び、核子の間に働く力を核力という。電磁気力や重力ではなく、強い相互作用の分類に属する。核力には中心力成分に加えて、重要な成分としてテンソル力がある。それは2個の核子のスピンや相対位置が独特の結合をしているときにのみ働き、核力を特徴付ける性質の一つである。

3.スーパーコンピュータ「富岳」
スーパーコンピュータ「京」の後継機。2010年代に、社会的・科学的課題を解決することで日本の成長に貢献し、世界をリードする成果を生み出すことを目的とし開発が始まった。電力性能、計算性能、ユーザーの利便性・使い勝手の良さ、画期的な成果創出、ビッグデータやAIの加速機能の総合力において世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年3月に共用を開始した。現在「富岳」は日本が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラとして活用されている。

4.安定超重元素、超重元素
超重元素は原子番号104のラザホージウム(Rf)以降の元素を指す。原子番号114のフレロビウム(Fl)の中性子数184付近の同位体に安定な(あるいは準安定な)超重元素があるのではないかと考えられ、探索の努力が続けられている。理研が発見した原子番号が113のニホニウム(Nh)も超重元素の一つである。

 

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