プレスリリース

[ウェブリリース]生体内の特殊な環境を計算科学的に再現するプログラムを開発

2024年10月4日
筑波大学 計算科学研究センター

概要

タンパク質の試験管内と細胞内における構造の違いは、その働きや薬の効果に影響を与えることが知られています。このため、細胞内の環境がタンパク質の構造に与える影響を調べることが重要です。しかし、細胞内の複雑な環境を実験的に再現することは難しく、計算科学的なアプローチに期待が高まっています。そこで、本研究では細胞内部、とくに生体分子内部の環境を再現した構造モデルを生成するプログラム:BEMM-GEN (Biomolecular Environment Mimicking Model GENerator) を開発・公開しました(https://github.com/y4suda/BEMM-GEN)。BEMM-GENは、ユーザーが指定した任意の化学的組成を持つ筒状または球状の構造モデルを生成します。本プログラムにより、細胞内の環境におけるタンパク質の立体構造を解明する研究が加速することが期待されます。

研究内容と成果

近年の研究から、タンパク質の構造や機能が試験管内と実際の細胞内で異なることが明らかになってきました。とくに、細胞内に存在する「シャペロン」というタンパク質の折り畳みを補助する生体分子や、「リボソーム」と呼ばれるタンパク質を合成する生体分子の内で、タンパク質は特異的な構造を示し、それが機能に大きな影響を与えることがわかっています。そのため、それぞれの分子内部の環境がタンパク質の構造に与える影響を調べることが重要となります。しかし、複雑な生体分子内の環境を再現したり、その内部におけるタンパク質の構造を実験的に観測したりすることは依然として困難であるため、計算科学的手法が注目されています。このような背景を受けて、本研究では生体分子内部の環境を再現した構造モデルを自動的に生成するプログラムである:BEMM-GEN(Biomolecular Environment Mimicking Model GENerator)を開発しました。BEMM-GENは、ユーザーが指定した化学的な組成をもつ筒状または球状の構造モデルを生成でき、その内部に任意のタンパク質を配置することができます。そのため、BEMM-GENにより生成した構造を利用して分子動力学計算注1)を実行することで、注目したい生体分子内の環境がタンパク質の構造に与える影響を定量的に評価することが可能になります。

今後の展開

BEMM-GENの適用により、細胞内におけるタンパク質の立体構造を計算科学的に調査する研究が加速すると期待されます。本プログラムは、生体内分子の形状や組成を指定することで汎用的に特殊環境を容易にモデル化することが可能です。実際、私達の研究グループではプログラムにより作成したモデルを用いて、リボソーム内の環境がタンパク質の構造に与える影響を明らかにしています注2)。また、本プログラムはインターネット上に公開されており、誰でも簡単に利用することができます。そのため、本プログラムで生成したモデルを用いて、様々な生体分子中におけるタンパク質の立体構造を調査し、実際の細胞内におけるタンパク質の構造理解が深まると期待されます。

図1:本研究で開発したプログラム:BEMM-GENの概略図。 ユーザーが指定した化学的組成をもつ筒状/球状の構造モデルを生成できる。

 

注1)分子動力学計算:
コンピューター上でタンパク質のうごきをシミュレーションする手法。生体分子を構成する原子に作用する相互作用をもとに運動方程式を数値的に解くことで、そのうごきを高い時空間分解能で調べることが可能。

注2)筑波大学プレリリース (2024年8月20日):
リボソーム内の化学的性質が翻訳中のタンパク質の立体構造に影響する(https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20240820143000.html)

研究資金

本研究は、科研費による研究プロジェクト(JP22J0421、JP23K16989、23H04879、23H02427、JP21K06094)の一環として実施されました。

論文情報

【題 名】 BEMM-GEN: A Toolkit for Generating a Biomolecular Environment-Mimicking Model for Molecular Dynamics Simulation.
【著者名】 Yasuda. T1,2., Morita .R3., Shigeta. Y3., Harada. R3,4.

  1. 理工情報生命学術院 生命地球科学研究群 生物学学位プログラム 博士後期課程
  2. 日本学術振興会特別研究員
  3. 計算科学研究センター
  4. 生命環境系

【掲載誌】 Journal of Chemical Information and Modeling
【掲載日】 2024年10月4日
【DOI】      10.1021/acs.jcim.4c01467

研究代表者

生命科学研究部門
原田 隆平 准教授

日本学術振興会特別研究員・生物学学位プログラム 博士後期課程3年
保田 拓範