プレスリリース

原始的ミトコンドリアDNA複製酵素の発見

2024年2月22日

国立大学法人筑波大学
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
国立大学法人京都大学

真核生物の多様な系統から、祖先的なミトコンドリアゲノムの複製に関わるDNAポリメラーゼと考えらえるrdxPolAを発見しました。また、系統樹上でのrdxPolAの分布を検討し、真核生物初期進化から現在に至るまでの、ミトコンドリアゲノム用DNAポリメラーゼの進化シナリオを提案しました。

概要

ミトコンドリアは、祖先真核生物の細胞内に共生した細菌(αプロテオバクテリア)から進化した細胞内小器官です。独自のゲノム(ミトコンドリアゲノム)を持っており、これはαプロテオバクテリア共生体のゲノムが縮退した結果です。真核生物の多くのグループでは、POPと呼ばれるDNA複製酵素(DNAポリメラーゼ)がミトコンドリアゲノムの複製をしています。
 本研究では、真核生物の多様な系統からPOPを含めて既知タイプとは異なる10種類の新奇DNAポリメラーゼを発見しました。これらについて、それぞれの進化的起源と細胞内で機能する場所を詳細に解析した結果、その中の一つ「rdxPolA」がミトコンドリアゲノムの複製を行っており、αプロテオバクテリア共生体が持っていたDNAポリメラーゼの直系の子孫であると判明しました。rdxPolAは祖先的なミトコンドリアゲノムを複製すると考えられ、原始真核生物から、現在地球上に棲息する真核生物に至るまでの、ミトコンドリアゲノム用DNAポリメラーゼの進化シナリオが提案されました。
 本研究成果は、ミトコンドリアのDNA複製機構がどのように進化してきたか、原始真核生物細胞内でミトコンドリアがどのように確立したのかを解明する上で重要な知見を提供します。

本研究で提案したミトコンドリアではたらくDNAポリメラーゼの進化シナリオ。2つの主要なミトコンドリアではたらくDNAポリメラーゼであるrdxPolAとPOPの分布が、真核生物の初期進化の過程でどのように形成されてきたかを模式的に示している。オレンジ、青、黄色の線はそれぞれ、αプロテオバクテリアのrdxPolA、POP、αプロテオバクテリアのDNAポリメラーゼの進化の軌跡を表す。丸印と×印はそれぞれ、DNAポリメラーゼの確立と消失を示す。rdxPolAはミトコンドリアの誕生となったαプロテオバクテリアと真核生物との共生イベントに由来し、POPは真核生物の最後の共通祖先(LECA)との間に獲得された。現存する真核生物の共通祖先であるLECAはrdxPolAとPOPの両方を持っていたが(pre-LECA)、その後の進化において、真核生物の主要グループごとに系統が分岐した後に、それぞれの系統で二次的な消失が起こった。

研究代表者

筑波大学計算科学研究センター
 稲垣 祐司 教授
 原田 亮(日本学術振興会特別研究員DC2)

国立研究開発法人海洋研究開発機構
 矢吹 彬憲 主任研究員

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
 矢﨑 裕規 研究員

京都大学大学院農学研究科
 神川 龍馬 准教授

掲載論文

【題名】 
Encyclopaedia of family A DNA polymerases localized in organelles: Evolutionary contribution of bacteria including the proto-mitochondrion.
(オルガネラ局在ファミリーA DNAポリメラーゼ百科:原始ミトコンドリア共生体をふくむ細菌からの進化的貢献について)
 

【掲載誌】

Molecular Biology and Evolution
【DOI】
10.1093/molbev/msae014

 

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