プレスリリース

[ウェブリリース]アミノ酸のホモキラリティ起源は天の川銀河形成時のライマンアルファ光で形成された

2023年9月25日

国立大学法人筑波大学

概要

 地球上の生命が無生物から誕生する過程は未だ多くの謎に包まれている。その一つに生命のホモキラリティ問題がある。生物を構成する基本分子であるアミノ酸は、鏡像異性体と呼ばれる2つの光学異性体(L体とD体)をとりうるが、地球上の生物はこのうちL体のみを利用している(L体過剰)。なぜL体が選択されるに至ったかその機構は十分に解明されていない。この起源として、生命誕生前の銀河形成時における円偏光-光分解が可能性として考えられる。

 近年の研究により、アミノ酸をはじめとする生体分子が隕石や小惑星から見つかり、地球外にもこれらが存在することが判明している。これらが隕石により原始地球に飛来し、現在の地球上生命の起源となったとする説が提案されている。一方、銀河形成の初期段階では、ライマンα輝線と呼ばれる水素原子の脱励起に伴う121.56 nm(10.2 eV)の強い輝線が放射されることが観測されており、周辺の星間ダストの影響を受け、広範囲にわたるライマンα光の円偏光領域が存在していたと考えられる。しかしながらライマンα光を含む高いエネルギー領域でのアミノ酸のL体過剰生成は、これまで十分に議論されてこなかった。

 本研究では、これら真空紫外領域(~11 eV)でのアミノ酸の円偏光吸収を理論的に算出し、広いエネルギー領域に適したL体過剰生成の計算式を新たに導出した。その結果、10 eV付近に複数のアミノ酸に共通して高いL体過剰率を持つ波長領域が存在することが分かった。これは、ライマンα光照射によりL体過剰が強く引き起こされることを示唆する。このことから、我々の天の川銀河では、銀河形成時のライマンα光照射により太陽系全体でD体アミノ酸の選択的光分解が起こりL体過剰となることで、地球上生命のホモキラリティにつながったと考えられる。本機構は生命の起源の謎や生体分子の宇宙起源説を紐解く重要な手がかりとなる。

 

掲載論文

題名:
Origin of Homochirality in Amino Acids Induced by Layman-α Irradiation in the Early Stage of the Milky Way
(アミノ酸のホモキラリティ起源は天の川銀河形成初期のライマンα光で形成された)

掲載誌:
Astrobiology

DOI:
10.1089/ast.2022.0140

 

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