プレスリリース

[ウェブリリース]佐渡島が新潟の降雪量を減らす「佐渡ブロック」のメカニズムを解明

2023年7月27日
筑波大学 計算科学研究センター

概要

日本海に近い北陸地方は、一般的に豪雪地帯であるが、日本海側最大の都市である新潟市は、近隣の都市に比べて降雪量が少ない。その理由として、新潟市の風上に位置する佐渡島が降雪量を減らすという雪陰(注1 効果がある。これは、気象予報士や住民の間で「佐渡ブロック」(注2 と呼ばれ広く信じられているが、その真偽やメカニズムは十分に調査されてこなかった。
本研究では、長期間のレーダーデータの統計解析と典型12事例を対象とした数値実験により、新潟市の降雪に対する佐渡島の雪陰効果の存在とそのメカニズムを明らかにした。その結果、佐渡ブロックは確かに存在し、そのメカニズムは、(1)佐渡島が降雪をもたらすことで、その風下海上の水蒸気・雲水などを減少させる、(2)佐渡島が風下の風速を弱めることで、風下海上から大気への熱と水蒸気の輸送量を減少させる、ことが分かった。

研究内容と成果

はじめに、2005–2014年の冬(12月~2月)のレーダーデータを統計解析した。その結果、強い接近風が佐渡島に到達した188例中151例(80%)で、新潟平野における雪陰効果が発生していたことが分かった。この雪陰の発生位置は常に佐渡島の風下で、風向きに依存していた。すなわち、北西風の時は新潟平野の中でも佐渡の南東に位置する地域で、西風の時は佐渡の東に位置する地域で特に降雪量が少ない傾向が認められた。
次に、典型的な12事例を対象に、気象モデルを用いた数値実験を行った。その結果、気象モデル内で佐渡島がある時の実験の場合、モデル内に佐渡島がない時の実験よりも、新潟平野で降雪量が少ないことが確認された(図1)。
さらに、佐渡島を風上方向(北西方向)に200km移動させた実験を行った結果、佐渡島の雪陰効果は、佐渡島の風下150kmまで現れることが分かった。最後に、佐渡島を北東方向に150km(庄内平野沖に)移動させた実験を行った。その結果、新潟平野の降雪量は、他の平野の降雪量と同程度になった。
数値実験の結果をさらに解析した結果、佐渡島は風下の風を弱めることで風下海面から大気への熱と水蒸気の輸送量を減少させることがわかった。同時に、風下の水平風の収束も弱めることも分かった。また、佐渡島で雪が多く降ることで、風下海上の水蒸気、雲水、雲氷の量を減少させることも明らかとなった。これらの結果、佐渡島は風下海上の雲列の再発達を弱め、新潟市を含む風下平野の降雪を減少させることができると結論づけられた。

今後の展開

今回は季節風が佐渡島に吹き付ける事例を対象に調査した。季節風が弱い場合の佐渡島の雪陰効果や、将来の新潟平野の降雪量に対する佐渡島の雪陰効果などが今後の課題としてあげられる。

参考図

図1: (a) 観測された降水量、(b)佐渡島がある場合の計算結果、(c)佐渡島がない場合の計算結果、(d)佐渡島の雪陰効果(佐渡ブロックの効果 図c-d)。いずれも典型12事例の平均値。

 

用語解説

  • 雪陰:山岳が存在することでその風下側の降雪量が周囲に比べて少なくなる現象、あるいはそのような降雪分布の特徴
  • 佐渡ブロック:佐渡島の存在が季節風によって運ばれてくる雪雲をブロックして、新潟平野の降雪を少なくする効果。気象の専門用語ではなく、気象予報士や住民などによる呼び名。

 

研究資金

環境省・(独)環境再生保全機構「環境研究総合推進費」 JPMEERF20232003

 

掲載論文

題名:The snow-shadow effect of Sado Island on Niigata City and the coastal plain
著者名:Hiroyuki Kusaka, Nobuyasu Suzuki, Masato Yabe, Hiroki Kobayashi
掲載誌:Atmospheric Science Letters
掲載日:2023年7月20日(ウェブ版)
DOI: https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/asl.1182

 

プレスリリース全文はこちら