プレスリリース

「熱」や「痛み」を感じるタンパク質の小さい動きを高速キャッチ!

-体に優しい鎮痛薬開発のための新たな創薬指針の提案へ-

東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻の佐々木裕次教授、産業技術総合研究所先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリバイオ分子動態チーム 三尾和弘ラボチーム長、藤村章子特別研究員、筑波大学計算科学研究センター生命科学研究部門 重田育照教授らの研究グループは、熱や痛みの伝達を司るTRPチャネル(注1)の1分子内部運動を、マイクロ秒オーダーで実時間計測することに世界で初めて成功しました。

ヒト及び多様な動物種の複数の感覚刺激の応答に関与することで知られるTRPチャネルは、4つのサブユニット(注2)から構成され、細胞膜を24回貫通する分子です。最近、詳細な分子構造が決定され、研究が一層加速され注目を集めています。TRPチャネルを活性化させるカプサイシンを添加した実験では、チャネルを開けてイオンを流す動きは、右回りのねじれ運動を伴い、またチャネルを阻害する薬剤を添加した実験では、それと逆向きに左回りのねじれ運動を検出しました。さらにカプサイシンが反応しない変異体TRPチャネルを使った実験では、阻害する薬剤を加えた時と同様にチャネルの運動を抑える左回りのねじれ運動が検出されました。このようにさまざまな条件下でリアルタイムにダイナミックな動きを検出することに成功しました。また、これらの動きがすべて数十pm2/msという極めて小さい拡散定数(注3)で動いていることも判明しました。

本研究グループが用いた計測法は「X線1分子追跡法(Diffracted X-ray Tracking: DXT)」(注4)と呼ばれるもので、金ナノ結晶でラベルされた部位における分子内部動態を1分子動画として検出します。この実験は兵庫県西播磨にある大型放射光施設SPring-8の BL40XU(注5)で行われました。DXTは従来の分子構造決定や反応ポケットの構造解析だけからは得られない、分子の動きに着目した新しい創薬技術の開発への貢献が大いに期待されます。

この成果の詳細は物理化学領域において長い歴史のある国際誌Journal of Physical Chemistryに掲載され、本研究のイメージ図が表紙に採用される予定です。なお、雑誌掲載に先立ち、同誌Webサイトにて、2020年12月9日にオンライン公開されました。

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