プレスリリース

太陽光の効率的光アップコンバージョン過程のメカニズム解明 ~新たな光エネルギー活用に向けて一歩前進~

平成30年11月15日

国立大学法人 筑波大学

 

概要

 国立大学法人筑波大学 計算科学研究センター 佐藤 竜馬 研究員(現 理化学研究所基礎科学特 別研究員)、鬼頭-西岡 宏任 さきがけ専任研究員、重田 育照 教授らは、産業技術総合研究所 鎌田 賢司 上級主任研究員、溝黒 登志子 主任研究員、国立大学法人静岡大学 小林 健二 教授らと共同で、結晶中における三重項—三重項消滅過程注1)と三重項エネルギー移動の競合が、9,10ジフェニルアントラセン(DPA)注2)とその誘導体の光エネルギー変換効率の差に寄与していることを、数値シミュレーションにより明らかにしました。特に、三重項エネルギー移動方向の次元性の違いがそのメカニズムの鍵になっていることを究明しました。

 低いエネルギーの光を高いエネルギーの光へと変換する機構として光アップコンバージョン(UC)が知られ ています。これまでは、高強度のレーザーによる二光子励起や希土類イオンの多段階によるUC機構が知られていましたが、これらの方法ではエネルギー損失が大きいため、変換効率が1%と低いことが問題でした。 近年、これまで利用できなかった太陽光の可視・近赤外領域を利用してUCを起こす機構として、三重項- 三重項消滅(TTA)が注目されています。これまで使うことのできなかった太陽光の波長帯のエネルギーを、 光触媒や太陽光発電で用いられる光に変換可能になる技術ですが、そのデバイス化等の実用化のためには、酸素耐性をもち、固体系で実現する系の創出が急務となっていました。鎌田らにより、DPAとその誘導体 (C7-sDPA)注3)の微結晶で、TTA-UCが観測され、C7-sDPAがより高い反応量子収率を持つことが示されましたが、そのメカニズムは分かっていませんでした。

 今回、研究グループは電子移動の反応速度の基礎理論であるMarcus理論に基づく理論計算により、 TTAおよび三重項励起子移動(TTET)の反応速度を解析しました。特にTTETは移動しやすい方向がDPAでは2次元的、C7-sDPAでは1次元的と大きな違いがありました。実験から求められた三重項寿命と三重項励起子の拡散に対する解析的なモデルを用いて三重項励起子の接近確率を求めたところ、2次元的な拡散よりも1次元的な拡散の方が接近確率が高いことが示されました。このことが、C7-sDPAの方がDPAよりも反応量子収率が高くなる原因だと結論づけました。

 本研究成果は、2018年10月29日付でThe Journal of Physical Chemistry Letters 誌で先行公開されました。

* 本研究は、新学術領域研究 高次光応答分子「理論と実験の協奏的アプローチによる複合スピン励起子変換制御」(研究期間:平成26~30年度)、によって実施されました。 また、分子科学研究所計算科学研究センター協力研究の支援を受け、同施設の計算機を使用させていただきました。

図1 TTA-UCの素過程

 

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