研究Topics

超伝導の新しい理論の提案 そして量子コンピュータへ

小泉 裕康 准教授

量子物性研究部門

超伝導という現象を教科書的に説明するとき、BCS理論という理論が使われます。しかしこの理論には、証明がされていない、実験と矛盾するなどの問題点も含まれています。小泉准教授は全く別の観点から、より矛盾のない理論の構築に取り組んでいます。 

(2022.10.24 公開)

 

超伝導を説明する全く新しい理論

超伝導とは電気抵抗ゼロで電流が流れる現象のことで、1911年に初めて発見されました。その発見から40年以上経った1957年、バーディーン、クーパー、シュリーファーという3人の物理学者によって、超伝導を説明するBCS理論が提案されました。それぞれの頭文字をとったこの理論によって、3人は1972年のノーベル物理学賞を受賞しています。しかし、BCS理論には登場当初からいくつかの問題点が指摘されていました。特に1986年に液体窒素温度を超える高温領域で超伝導を示す物質として銅酸化物が発見されたことで、BCS理論では説明しきらない超伝導現象があることがわかってきました。

例えばBCS理論では、互いに逆方向のスピンを持つ2つの電子がまるで1つの電子のように振る舞う“クーパー対”が形成されると考えます。このクーパー対の流れである超伝導電流は、電気抵抗なしで流れることができ、言い換えればこのクーパー対の形成こそが超電流のメカニズムであるということになります。超伝導状態から常伝導状態(電流が流れる際に電気抵抗がある状態)へ移行するときには、電子対が破壊されて普通の電子となり、熱が発生するはずです。ところが、実験では超伝導電流は熱を発生せずに消失することが証明されています。

現在主流のBCS理論が実験結果と矛盾することから、超伝導現象には未知のメカニズムが隠されている可能性が高いと考えられます。

小泉先生は、こうした問題点を解決するべく新しい理論の研究を続けてきました。そのうちの一つが、ベリー位相と呼ばれる量子力学的効果を取り入れた理論です。

 

ループ電流の研究、そして量子コンピュータへの発展

小泉先生は、数式で表された理論とすでに証明されている実験との整合性を考察し、新しい実験結果を予言するという理論物理学的な手法で研究を進めています。BCS理論で実験と矛盾していた「熱」の発生について解決すべく、超伝導のもつエネルギーの他に磁場のもつエネルギーがどのように作用するのかを検討したところ、ある種のスピン軌道相互作用1)によって波動関数2)の位相が変化することで多数のループ電流が発生することを導き出しました。このループ電流の集まりが超伝導状態を生み出すと考えることで、これまでのBCS理論では解決できなかったさまざまな問題が説明可能になりました。

図1 標準理論と小泉先生の提唱した新理論の違いを示す概念図

 

ループ電流は文字通り、環状に流れ続ける電流です。特にここでは、時計回りは-1、反時計回りは+1の整数に対応した電流(トポロジカルに保護された電流、と言います)を考えます。こうした電流は、電流のもつ運動エネルギーと外から侵入する磁場のエネルギーが同じになったとき、整数が0となり、熱を発生せずに消失します。この理論によって、BCS理論で課題となっていた「熱」の発生を伴わずに超伝導電流を消失させることが可能になりました。

銅酸化物高温超伝導体では、ループ電流が存在することが実験からも示唆されています。このループ電流が小泉先生の新理論におけるループ電流にあたるのか、実験での証明が待たれます。

 

 

 


【用語】

1)スピン軌道相互作用:電子の持つスピン角運動量と軌道角運動量という二つの物理量の相互作用。

2)波動関数:原子、分子、素粒子などの状態を表すのに用いられる座標の関数。

 

さらに詳しく知りたい人へ

  • 最新の論文
    Schrödinger representation of quantum mechanics, Berry connection, and superconductivity  (シュレディンガー表示による量子力学、ベリー接続、超伝導)
    【著者名】 Hiroyasu Koizumi
    【掲載誌】 Physics Letters A
    【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.physleta.2022.128367