研究Topics

ミクロな原子の構造から、マクロな物性を予測する

小泉 愛 助教

量子物性研究部門

小泉先生は、この春から新たにセンターの研究者に加わりました。計算物質科学を専門とし、微視的構造(ミクロ)と巨視的物性(マクロ)の関係に長年興味を持ってきました。これまで、分子シミュレーションとデータ駆動科学を用いて研究を行ってきました。

現在の研究テーマを追い求めるきっかけとなったのは、幼い頃から持っていた「物のでき方(成因)」に対する興味でした。「この石はどのようにしてできたのだろう?」という疑問、そして「その成因を微視的に解明したい」という想いを現在まで持ち続けています。

実は小泉先生は学生時代、地球科学科の出身でした。当時、教科書で鉱物の微視的な結晶構造について学んだあと、実際にフィールドワークで鉱物を採集し、その表面を触って「結晶には割れやすい方向があるという性質(劈開)」を実感したとき、目に見えない原子レベルの結晶構造と鉱物の巨視的な性質が頭の中で繋がり、深い感動を覚えたと言います。そこから、もっとミクロな視点で物の見方を学びたいという想いから化学科に転学科しました。以来、小泉先生はミクロからマクロを予測する研究を現在まで続けてきました。

(2026.6.22 公開)

結晶構造から電流の流れやすさを予測する

小泉先生が今までやってきた研究のうち1つをピックアップします。(*1)近年、デバイスの小型化が進み、ミクロとマクロの関係に基づいた材料設計の重要性が高まっています。電池の素材の結晶中でイオンが移動することによって電流が流れる仕組みとなっており、結晶が小さく薄くなっていくと、電流の流れやすさは微視的構造の影響を受けやすくなります。しかし、この微視的構造と電流の関係(図1)は実験的な測定で確かめるのが非常に難しいという問題がありました。

そこで、小泉先生は「結晶構造の中のどのような微視的構造の特徴が電流を変化させているのか?」を明らかにすることを目的として、分子シミュレーションとデータ駆動科学を用いてその関係性を調査しました。

図1:微視的構造と電流の関係性の概念図

 

本研究で注目したのは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)という結晶です。図2は、YSZの結晶構造を示しています。緑色の粒がジルコニウムで、その一部がイットリウム(灰色)で置き換えられているのが特徴です。この結晶中を酸素イオン(赤色)が酸素空孔を介して移動することによって電流が流れる仕組みとなっており、電流の流れやすさはイットリウムの配置によって変化します。

図2からわかるように結晶中のイットリウム配置はとても複雑で、電流との関係はすぐにはわかりません。そこで、電流の流れやすさを変化させる重要な構造の特徴は何か?を明らかにするために酸素イオンの移動に関する構造の特徴量を定義しました。

図2:YSZの結晶構造(緑がジルコニウム、灰色がイットリウム、赤が酸素イオンを表す)

 

そして、定義した結晶構造の特徴量と電流の関係を対応させるために、膨大なイットリウムの配置パターンに対して、どのくらいの電流が流れるかをシミュレーションで計算し、大量の構造-電流データを作成しました。その上で、それらのデータを学習させた機械学習モデルを構築しました。その結果、「この配置なら、このくらい電流が流れるはずだ」というように、結晶構造の特徴量から電流の流れやすさを高精度で予測できるようになりました。

つまり、小泉先生はこの研究を通して、複雑な結晶構造の中から電流を変化させるために重要な微視的構造特徴を特定しました。本研究ではYSZに焦点を当てましたが、この手法は他のイオン伝導体にも同様に適用することができます。この研究が進むことで、より高性能な電池を効率よく設計できるようになることが期待されます。

 

今後の展望・学生へのメッセージ

「このようなシミュレーションの研究で材料設計をしても、それを実験で作ることができなければ意味がないと考えています。だからこそ、理論を現実に繋げる仕組みも作っていきたいです。」

今回の研究で、ミクロな原子の構造からマクロな物性の予測に成功した小泉先生ですが、現在は既にその先を見据えています。その研究への熱意の源は、学生時代に石を見たときに湧き上がった「どのようにしてできたのだろう」という純粋な好奇心でした。その「知りたい」という気持ちは、今も全く変わっていないそうです。

最後に、学生へのメッセージをいただきました。

「自分の中にある疑問や面白いと思ったことは、世間の流行に惑わされず、とにかくやってみてほしいです。」

学生時代からの興味とやりたいことを貫いてきた小泉先生ならではの説得力がありました。

(文・広報サポーター 野本実奈)

 

さらに詳しく知りたい人へ

*1)Linking Microscopic Structures to Ionic Currents in Solid Electrolytes via Kinetic Monte Carlo and Regression Analysis

Ai Koizumi, Mariia Ivonina, Ryo Tamura, Tomofumi Tada
The Journal of Physical Chemistry C 2026年3月
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpcc.5c06852