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使い方は無限大?! ~AIGCの医療応用~

謝 淳 助教

計算情報学研究部門 計算メディア分野

謝先生は、計算情報学研究部門計算メディア分野の研究者です。好奇心旺盛な謝先生は、出てきたばかりのAIGC(AI-Generated Content)の技術をいち早く自身の研究に取り入れました。この記事では、謝先生の見据えているAIGCの応用可能性について紹介します。

(2025.7.9 公開)

AIGCとの出会い

近年、急速な発展を遂げたAIGC。皆さんは使ってみましたか? AIGCとはAI-Generated Contentの略で、AIによるコンテンツ生成技術のことです。有名なChatGPTもAIによるテキストコンテンツ生成技術なので、AIGCの一種ということになります。AIGCが誕生したのは2010年代後半で、当初はテキストからテキスト、画像から画像を生成することしかできませんでした。数年前にようやく、テキストから画像を生成できるようになりました。

実は、謝先生もAIGCユーザーのひとりです。日常生活から仕事まで、様々なことにAIGCを取り入れています。ある日、試しにAIGCでレントゲン画像を作ってみたとところ、本物そっくりの画像ができてたいそう驚いたといいます。この瞬間、謝先生は自身の研究テーマにもAIGCを活かせると確信しました。

図1:本物のレントゲン画像(左)とAIGCで作成したレントゲン画像(右)。素人から見れば、左右の画像のどちらが本物か、区別がつかない。(出典:Chambon, C. Bluethgen, C. P. Langlotz, and A. Chaudhari, Adapting Pretrained Vision-Language Foundational Models to Medical Imaging Domains. 2022.)

 

謝先生は、もともと画像処理技術を医療分野へ応用する研究を行っていました。これまでのテーマとしては、次のようなものがあります。

  1. レントゲン画像に写っている点が身体の中のどの点に対応するのか? この対応付けを自動で行うにはどうしたら良いか?
  2. 腹腔鏡手術では、お腹にいくつか小さな穴をあけ、そこから細いカメラや手術器具を入れ、カメラが映し出す映像をモニターで見ながら手術を行う。モニター越しではカメラや手術器具の先端がどこにあるのか分かりにくいので、体の表面に内臓の映像を投影し、手術をやりやすくできないだろうか?

この2つの問いを解くカギとなるのは、様々な角度から撮影した画像です。ところが、実際の医療現場では、数方向からしか画像が撮影されていないことがほとんどです。AIGCを使用して様々な角度から撮影したような画像を生成すれば、この問題を解決できる可能性があります。

図2:例1(上)と例2(下)のイメージ

AIGCの応用可能性

AIGCを用いて画像を生成することで、解決できる課題は他にもあります。課題のひとつとして、医療系の学習教材を充実させることが挙げられます。例えば、男性の乳がんなど、珍しい症例に関するデータは、そもそも母数が少ないので画像データを集めることが困難です。また、よくある症例だとしても、個人情報の扱いや研究倫理の審査など超えなくてはいけない壁がいくつもあり、データを公開できないことが多々あります。そうした場合に、AIGCを用いて個人情報の含まれない仮想の患者のカルテを作成し、教材用のコンテンツとして利用しようという試みがあります。

また、次のような応用も考えられます。病院でよく行われるレントゲンとCTは、X線を使った検査です。レントゲンが一方向からの写真であるのに対し、CTはX線を様々な角度で当てて連続的に撮影し、コンピュータで立体的に構築したものです。つまり、レントゲンは2次元データ、CTは3次元データということになります。CT画像を構成する画像のうちある一方向からの画像を取り出せば、レントゲン画像に変換することができます。この操作に必要なのは数学的な処理だけなので、機械に任せることができます。一方、一枚のレントゲン画像からCT画像へ変換するためには、不足している方向のレントゲン画像を補わなければなりません。経験豊富な医師であれば、不足している情報を経験で補い、さまざまな判断を行えます。この“経験”を先見知識として学習させることができれば、自動でレントゲン写真からCT画像への変換ができるようになるかもしれません。実現はもう間近。ご期待あれ!

図3:AIGCによりレントゲン画像から自動で生成されたCT画像

(文・広報サポーター 松山理歩)