センター長挨拶

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「計算科学」とは、様々な科学分野における現象について、計算機シミュレーションを中心とした手法によって明らかにし、従来の「理論」と「実験」の範疇では解き得ない問題解決を図る第三のアプローチです。このためには大規模な計算モデルとデータを扱うことができるスーパーコンピュータの存在が極めて重要です。計算科学研究センターは、こういった計算科学的手法により、最先端の科学技術問題に対する研究を、様々なアプリケーション分野の研究者と計算機システムの研究者の協業によって進めることを目的として設立された研究センターです。前身である計算物理学研究センターは1992年に設立され、2004年には対象とする分野を計算物理学から計算科学全般に拡大し、大幅に研究者数を増員、現在の計算科学研究センターとして改組されました。

計算科学研究センターではこれまで、アプリケーションとシステムの両サイドの研究者が協力し、解くべき問題の特性・規模・システムの制約といった条件を総合的に考えて最適なアプリケーション実装とシステム構築を行うという、「コ・デザイン」と呼ばれるコンセプトに基づく高性能計算を実現してきました。一般的なスーパーコンピュータセンターとは異なり、独自設計による大規模並列システムを導入し、それに最適化したアプリケーションコードを開発してきました。この成果として、1996年11月に、世界のスーパーコンピュータの性能ランキングリストであるTOP500リストにおいて世界第一位にランクされ、さらに2011年と2012年には高性能アプリケーションで世界最高性能を達成したことでACMゴードン・ベル賞を2年連続で受賞しました。これらの伝統は今でも続いており、PACS/PAXシリーズと名付けられた独自開発システムが継続的に開発・導入され、最新技術に基づくコ・デザイン研究を行なっています。

このように、コ・デザインのコンセプトに基づくアプリケーションとシステムの開発を行い、その上で世界トップレベルの計算科学を実現することが我々の目標です。また、このような計算科学研究の国内及び世界における発展に寄与することも大きなミッションであると我々は考えています。その一環として、センターのスーパーコンピュータ資源の約半分を無償で国内外の研究者に提供し、計算科学と高性能計算研究を推進する、「学際共同利用」プログラムを続けています。これに要するコストは全て当センターが賄い、世の中の計算科学研究を大きく推進しています。この他にも、コ・デザインに基づく計算科学を推進する様々な活動を行なっています。世界トップレベルの高性能計算および計算科学に関する様々な研究組織とMOUを結び、共同研究を進めているのもその一環です。また、我が国のフラグシップスーパーコンピュータの構築とアプリケーション開発に携わる研究者も多くおり、ポスト「京」コンピュータにおける重点課題の一つである「宇宙の基本法則と進化の解明」の研究代表拠点でもあります。

当センターのこれまでの多くの実績と成果を礎とし、計算科学と高性能計算システム技術の発展に一層の貢献を行い、世界トップレベルの計算科学研究機関として我が国の計算科学に寄与するべく、今後も努力して参ります。

2019年4月
筑波大学計算科学研究センター長
朴 泰祐