プレスリリース

筑波山神社と筑波大学計算科学研究センター、 筑波山山頂にて、共同気象観測をスタート

掲載情報:NHK(4/21 18:00)、読売新聞(4/22)、常陽新聞(4/22)、毎日新聞(4/26)、筑波大学新聞(5/16)

プレスリリース

2016年4月21日

国立大学法人筑波大学
筑波山神社

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発表のポイント

  • 1. 筑波山神社と筑波大学計算科学研究センターの協働がスタートしました。
  • 2. 筑波山男体山山頂の気象観測所名を改称しました。
  • 3. 筑波山男体山山頂の気象観測所に設置された観測機器をリニューアルしました。
  • 4. 筑波山男体山山頂に、筑波山における気象観測の歴史や研究内容などを紹介する看板を設置しました。

筑波大学計算科学研究センターは、気象学・気候学の研究を目的として、関東平野の孤立峰である筑波山の男体山(標高871m)山頂にて2012年(平成24年)より気象観測を行ってきました。継続的に気象データを記録・公開することにより、筑波山山頂で1902年(明治35年)から100年以上に亘って続く気象データの蓄積と気象研究の発展を支えています。

この度、計算科学研究センターと気象観測施設の所有者である筑波山神社は、より連携を深め、筑波山山頂における気象観測の継続性を確かなものとするため、観測施設名を「筑波山神社・筑波大学計算科学研究センター共同気象観測所」と改めました。改称にあわせ、登山者の方など広く一般の方に施設や研究の目的・意義を知っていただくために施設沿革や研究内容について紹介する看板を設置いたしました。また、観測機器を最新のものに更新いたしました。

これにより、研究者にとっては関東の降雪予測や温暖化研究のための貴重なデータが継続して得られるようになりました。観測データはリアルタイムにWebで公開していますので、一般の方も、筑波山山頂の気温や雨、風の状況などを知ることができます。今後はデータ公開ページを見やすくする、つくば駅周辺に山頂のリアルタイム気象データを公開するモニタを設置するなど、より一般の方にも使い易いデータ公開方法を検討していきます。

背景

(1) 沿革

筑波山山頂における気象観測は、1893年(明治26年)の中央気象台(現・気象庁)による冬季観測に始まりました。1902年(明治35年)、旧皇族の山階宮家により「山階宮筑波山測候所」が開設され、通年の気象観測が開始され、その7年後には、国に施設が寄贈され「中央気象台附属筑波山測候所」となりました。100年以上にわたり我が国山岳気象観測の拠点としての役割を担ってきましたが、アメダス(地域気象観測システム)観測地点の統廃合により2001年(平成13年)12月に廃止されました。しかし、100年を超える同一地点での気象データの蓄積は科学的にも非常に貴重です。そこで、2006年1月、筑波大学大学院生命環境科学研究科の大気科学・水文科学研究グループによる、平成17年度学内プロジェクト研究・特別助成研究(S)「筑波山における気象・水文環境の多要素モニタリングによる大気・水循環場の解明(略称:筑波山気象・水文観測プロジェクト)」(代表:林 陽生教授)として、筑波山気象観測ステーションが始動しました。2012年4月より計算科学研究センターの事業の一つ、「筑波山プロジェクト」(担当:日下博幸准教授)として引き継がれ、観測が続けられてきました。

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筑波山神社・筑波大学計算科学研究センター共同気象観測所の外観

(2) 山頂気象観測所を取り巻く状況

近年、地球環境の持続性への関心が高まる中で、特に地球温暖化研究において、筑波山山頂における100年以上続く観測データの蓄積は非常に貴重です。また、首都圏での降雪や集中豪雨などさまざまな気象現象の予測と解明が社会的課題となっています。このような状況の中で、筑波山山頂における気象観測はますますその必要性が高まっています。

詳細

(1) 筑波山神社との協働スタート

気象観測所の土地建物は、筑波山神社が所有しています。これまでは、筑波大学が土地と建物の一部を借り受けて観測装置の設置と研究を行ってきました。一方で、筑波山神社もまた、山頂の天候状態を知るためにライブカメラを設置するなどの取り組みを行ってきました。
筑波山神社には、山頂の現在の気温や天候を問い合わせる登山者からの連絡が多く寄せられます。今後、公開されている筑波山の気象観測データを活用する方が増えれば、神社にとっては問い合わせへの対応が減り、本来の業務に集中することができると期待されます。筑波山計算科学研究センターにとっては、現在の観測装置に加えて山頂に設置されたライブカメラの映像を用いることで、山頂の天候状況を視覚的に捉える情報にアクセスすることが可能になります。
今回、観測施設の名称を「筑波山神社・筑波大学計算科学研究センター共同気象観測所」と改めたことを機に、今後は互いのリソースを有効に活用した協働を推進していく予定です。

(2) 観測機器のリニューアル

筑波山山頂における100年以上続く気象観測データの蓄積は非常に貴重ですが、さらに重要なことは、今後も続く観測の継続性です。安定した観測を維持するため、3月22日〜25日に観測機器のリニューアルを行いました。現在観測に使用している機器は、電気式温度計、電気式気圧計、電気式湿度計、転倒ます型雨量計、風向風速計の5つで、観測項目は、気温、気圧、相対湿度、降水量、日射量、(風向、風速)です。風向風速計は現在調整中ですが、その他の測器で計測しているデータは、計算科学研究センターの筑波山プロジェクトページで公開しています。
一般的な観測施設における観測機器更新と異なり、筑波山男体山山頂にある観測所での観測機器更新は、精密機器の荷揚げという困難を伴います。今回の観測機器更新では、株式会社ウェザーニューズ、国立環境研究所などから、筑波山の気象データを活用している研究者・気象予報士の方が荷揚げのサポートに駆けつけてくださいました。このことからも、筑波山山頂の気象観測データへの研究者・気象関係者の関心の高さが伺えます。

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新しくなった雨量計

(3) 看板の設置

1928年(昭和3年)に建てられた施設は老朽化も進み、外からは一見してその役割がわからない状態となっていました。また、登山道に面した立地にあり、観測した気象データを公開しているにもかかわらず、気象観測を行っていることや最先端の研究に活用されていることはほとんど知られていませんでした。そこで、筑波山を訪れる方に山岳気象観測の歴史や現在の研究、気象データの公開状況を知ってもらおうと、3月24日、男体山山頂に看板を設置しました。

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筑波山における気象観測の歴史や研究を紹介した看板

筑波山山頂の気象データを用いた研究の概要

筑波大学計算科学研究センターでは、「筑波山神社・筑波大学計算科学研究センター共同気象観測所」における気象観測を継続し、過去100年以上にわたる貴重な気象観測を継承するとともに、関東平野での降雪予測、斜面温暖帯やサーマル(熱対流)などの筑波山に関連した大気現象の解明、長期的な気温変化に対する地球温暖化と都市化の影響調査などを推進します。

関東平野の降雪予測

筑波山は関東平野の孤立峰であるため、周囲の環境の影響を受けずに上空の気温データを得ることができます。このため、南岸低気圧が日本に接近した際に、首都圏での雨雪を判別する際の重要な観測点となります。経験的に、筑波山山頂の気温が-2℃以下になると、首都圏の雪の可能性が高くなると言われています。筑波山山頂の気象データは、首都圏での降雪予報の精度を上げる研究に役立てられています。

斜面温暖帯の研究

筑波山では山麓より山腹の気温が高くなる斜面温暖帯が顕著に現れます。この斜面温暖帯は、みかん(福来みかん)の栽培にも利用されるなど、地域住民の生活に密接に関わる現象です。筑波大学では、最新の観測測器や数値モデルを利用して、この斜面温暖帯の実態解明に取り組んでおり、筑波山山頂のデータも活用されています。

地球温暖化及び都市温暖化の評価

地球温暖化研究においては、過去と現在の気象状況(気温など)の比較が非常に重要です。しかしながら、街中の気象観測地点で継続的に記録されているデータには、都市の発展(都市化)の影響が含まれていると考えられます。筑波山山頂は、都市化の影響をほとんど受けない貴重な観測地点であり、また100年以上に及ぶ観測記録の蓄積があります。従って、筑波山山頂の気象・気温データは地球温暖化の影響評価に用いることができます。また山頂と都市の気温データを比較することにより、地球温暖化研究における都市化の影響を抽出することも可能です。

サーマル(熱対流)研究(スカイスポーツへの活用)

筑波山周辺では、パラグライダー、ハンググライダーなどのスカイスポーツが盛んです。これらの動力源をもたない滑空機は、上昇気流を捉えることで高度を確保します。筑波山周辺では、昔からサーマルに代表される上昇気流が知られていましたが、その発生傾向や発生のメカニズムは未だ完全には解明されていません。そこで、観測データと数値計算モデルを組み合わせた数値シミュレーションを行うことで、サーマルの機構解明を目指して研究を行っています。

今後の展開

現在、観測した気象データは計算科学研究センター「筑波山プロジェクト」のページでリアルタイムに公開しています。研究者や気象予報士の方に活用していただくことを目的にデータの公開をしていますが、今後はより見やすいホームページデザインを採用するなど、広く一般の方にも見やすいデータ公開を予定しています。また、BiViつくば(TXつくば駅駅前)のような人の集まる場所へのモニタ設置を行い、リアルタイムの筑波山山頂気象情報を配信することも検討しています。

問合わせ先

日下博幸 (くさか ひろゆき)
筑波大学 計算科学研究センター 准教授
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1

報道担当:
筑波大学計算科学研究センター広報・戦略室
TEL:029-853-6260 FAX:029-853-6260
E-mail:pr[at]ccs.tsukuba.ac.jp 

関連リンク

筑波山プロジェクトページ
https://www.ccs.tsukuba.ac.jp/research_project/mt_tkb/

関連機関

筑波山神社
http://www.tsukubasanjinja.jp/

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