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アンドロメダ銀河の奇妙な暗黒物質 ― 宇宙の暗黒物質を記述する標準理論にほころびか ―

プレスリリース

2014年12月10日

筑波大学計算科学研究センター

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概要

筑波大学大学院生の桐原崇亘、研究員の三木洋平、准教授の森正夫らによる研究グループは、アンドロメダ銀河※1を取り巻く暗黒物質※2の分布が、標準理論で予言される分布から大幅に食い違っていることを解き明かしました。
我々から240万光年彼方に位置するアンドロメダ銀河では、今から約8億年前に起こった銀河の衝突の痕跡が発見されています。本研究グループは、この銀河衝突の様子を筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータを用いて忠実に再現することにより、アンドロメダ銀河を取り巻く暗黒物質の広がりを調べました。その結果、驚くべきことにアンドロメダ銀河の暗黒物質は、標準的な天体形成の理論から予言されている暗黒物質の分布とは、大きく異なる分布をしていることを世界で初めて突き止めました。このことは、これまで受け入れられてきた天体形成理論※3の修正のみならず、暗黒物質の性質そのものに対しても示唆を与える可能性があります。
本研究成果は、日本天文学会誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」の2014年12月10日のオンライン版に掲載されました。

1.研究の背景

現在広く受け入れられている宇宙の天体形成理論では、小さい天体が互いの重力で集まり徐々に大きく成長していくことが示唆されています。そのような理論をもとにして、銀河や銀河団等の誕生・進化をシミュレーションした結果からは、観測的に見えている巨大な銀河には質量にして約10倍程度の暗黒物質が銀河の周りの分布し、その分布の広がりは観測される銀河のサイズの約10倍程度であることが分かっています。これまで、銀河の星の密度が高い領域では、星の集団的な運動から暗黒物質がどのような分布をしているのか研究されてきましたが、星やガスの密度が非常に小さい銀河の外側の部分では、最新の観測装置を用いても暗黒物質の分布を定量的に議論することは困難でした。

一方で、現在の標準理論では、銀河はより小さな銀河の衝突・合体を繰り返しながら進化してきたと考えられています。実際に、我々の天の川銀河やアンドロメダ銀河でも、銀河の衝突の痕跡が複数発見されており、詳細な観測がなされています。特に、アンドロメダ銀河では今から約8億年前に、質量にしてアンドロメダ銀河の1/400程度の小さな銀河の衝突が起こったことが理論、観測の両面からわかっています。そして、この銀河衝突によりアンドロメダ銀河の中心から伸びること約40万光年、幅2万光年にも及ぶ細長い棒状に広がった数億個以上の星の集団構造が出来上がり、実際に観測されています。巨大な銀河と小さい銀河との衝突現象を考える上で鍵となるのは、小さな銀河が巨大な銀河の周りを軌道運動する際に受ける巨大な銀河からの重力です。銀河が及ぼす重力は銀河の質量分布と密接に繋がっており、その大半を担っている暗黒物質の広がり方が最も重要となります。逆に、銀河の衝突を観測データをもとに、シミュレーションを駆使して忠実に再現することにより、暗黒物質の分布を再現することができるのです。

図1. 銀河衝突シミュレーション

図1. 銀河衝突シミュレーション

2.研究の成果

筑波大学数理物質科学研究科・博士後期課程1年の桐原崇亘氏と三木洋平研究員、森正夫准教授らによる研究グループは、アンドロメダ銀河に存在する巨大な銀河衝突の痕跡が銀河の外縁部の暗黒物質の分布を調べる良い指針となることを提案しました。そして、アンドロメダ銀河で起こった小さな銀河の衝突によって形成された巨大な痕跡を再現する数値シミュレーションを行うことで、アンドロメダ銀河の外縁での密度分布の様子を調べました。
衝突する小さな銀河を約25万体の粒子系として表現し、粒子間に働く重力相互作用を計算しながら、アンドロメダ銀河から受ける重力の影響も計算し、約10億年に及ぶ分布の進化を追いました(図1)。アンドロメダ銀河の暗黒物質の分布のモデルとして約80モデル変更した計算を行った結果、図2に示すように観測される構造をよく再現する暗黒物質の外側の密度分布は、これまで理論予言されてきた分布とずれており、遠方での密度が理論予言されているより急激に小さくなることを世界で初めて突き止めました。このことは、これまで受け入れられてきた標準的な天体形成理論に何らかの修正を必要とすることを意味しています。あるいは、暗黒物質の素粒子的な性質そのものに対しても何らかの示唆を与える可能性があります。大きなインパクトを与えるものとして期待できます。

図2. 暗黒物質の密度分布

図2. 暗黒物質の密度分布

3.今後の発展

同様な銀河衝突は、天の川銀河・アンドロメダ銀河に限らず、あらゆる巨大銀河で起こっています。高精度な観測と、大規模な数値シミュレーションを組み合わせることで、他の銀河でも銀河の密度分布が調べられます。本研究を足掛かりに暗黒物質のモデル・宇宙の構造形成のモデルに対する修正の必要性についても、新しい進展が得られるものと期待されます。


用語解説

※1 アンドロメダ銀河
我々の住む天の川銀河に最も近い、巨大な円盤をもつ銀河。地球からアンドロメダ銀河までの距離はおおよそ240万光年。

※2 暗黒物質
素粒子的には未だ直接検出はされていないが、我々の宇宙に存在する銀河や銀河同士の結びつきを説明する上で暗黒物質はほとんど必要不可欠なものとなっている。

※3 天体形成理論
我々の宇宙は、生まれたての頃ほとんど密度が一様でわずかな揺らぎが存在していた。その揺らぎが重力的な不安定性により成長し天体が形成されたと考えられている。そのような進化を暗黒物質を粒子として扱い、お互いの重力相互作用を膨張し続ける宇宙の中でシミュレーションされてきた。

問い合わせ先

森正夫(もり・まさお)
 筑波大学 数理物質系/計算科学研究センター 准教授
 TEL:029-853-6034
 E-mail:mmori[at]ccs.tsukuba.ac.jp

報道担当:
筑波大学計算科学研究センター広報室
 TEL:029-853-6260 FAX:029-853-6260
 E-mail:pr[at]ccs.tsukuba.ac.jp



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